行き着いた場所……

前話: ②行き着いた場所…

長生きはしたいですか?


当然でしょ!ですか?

先日テレビで、そう~遠くない未来に、自分のクローン?コピーを造り、ガタが来た臓器を造っておいたクローンのと取り替えて、生き永らえることが出来るようになるかも?とかやってましたね~。


元気な身体なら、ずっ~と生きたいですか?

私は…ノン!嫌だぁ~(笑)

全ては終わりがあるから、やってられる?気が…。


先日、仕事に行こうとマンションの玄関を出たら、植え込みの脇の段差の所に、おばあさんが座り込んでいた…よく見ると、たすき掛けにした水筒に、何かを押し込んでいる…

ウン?バナナ?

気になったが、一時間に二本しか来ない電車に乗り遅れる訳にはいかず、そのまま駅に向かった…

車中、半年だけ働いたディーサービスを思い出していた…

ディーサービス、比較的軽度な認知症、身体的にも車椅子程度の方達を食事、排泄、入浴などのお世話、ゲーム、歌、運動などで楽しんで頂く…のだが…

人のゆく末、老いるという事、長生きする事…かなり考えさせられた、衝撃的な日々だった…

毎朝、各家庭をマイクロバスでお迎えに行くスタッフと、お迎え準備をするスタッフがシフトで交代する…

待機スタッフは、朝のお掃除から洗濯物の整理、お風呂の準備、テーブルに新聞、雑誌を並べ、ホットタオル、朝のお茶の準備、今日やるゲーム、歌う歌詞カードのチェックなどなど、毎朝目が回る忙しさだ…

そして、続々と到着される方のまずは、靴に番号札を付けて、持っていらした手荷物から、連絡帳、入浴後のお着替え等を手早く抜いて、それぞれのネ~ムが入ったケースに入れて行く…そう、自分の物がどれかなんて、覚えている方…殆どいない…人の物を自分のだと言う方は、多数!

そんな中、『ロックして~!』叫び声が!そう、今日も○山さんが、脱走を図ったらしい …。

○山さんは、まだ50代、普通ならここには…そう、若年性認知症…お子さんはいらっしゃらなくて、ご主人と二人暮らし…ご主人はかなり大手の会社に、今も勤めておられる…

『家に帰る』『嫌だ』位しか言葉をあまり発しない…勿論身体が悪い訳ではなく、まだまだ若いから力もかなりある…

脱走防止に二重になってるドアの間で、帰る!帰るぅ~!を繰り返し足を踏ん張る○山さんを、看護師のSさんとチーフのNさんが、両脇を抱え、なだめつつも引きずる様に、室内に入れようとしていた…納得させる時間をさくには、朝はあまりに忙しいのだ…

この○山さん、ここに入所して8ヶ月、一度も入浴した事がない…と言うかご自宅でも…丸8ヶ月、お風呂に入ってない…

何度も皆で、あの手この手で入って貰おうと頑張ってみるのだが、服を脱がせるはおろか、一切体に触らせてくれない…

お若い頃は、かなりの美人さんだったと思える端正な顔だちなのに、おでこにかかっている髪はカチカチに固まった岩の様になってる…だから『臭い』も必然的にかなり…皆が何をする時も、ひとり離れた定位置の椅子に座ってぼんやりと遠目に皆を眺めている

昼食の時も、一人離れたそこに用意するのだが、殆ど口にする事もない…

そんな○山さんを、初めてバス当番になって迎えに行った時の事…普通は皆さん、ご家族と家の前で待っておられるのだが、ご主人は出勤した後、家の中で独りの○山さんをお連れする事になった私は、名前を呼びながら部屋に…言葉がなかった………

なんと、壁一面にポテトチップスの袋が貼ってあるのだ…ぎっしりと隙間なく!そして服やら、新聞やらビニール袋が散乱した部屋にうずくまってる○山さんが、振り向いた…

つづく…。

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