38キロ地点で待っている家族と仲間へ「必ず会いに行きます」初心者ランナー、抗がん剤治療を乗り越え東京マラソンを完走
【1月は240キロ走った!】
朝練、週末練習を重ね、1月には200キロを超える練習量をこなし、月間走行距離の最高記録を達成することができました。
速度はあまり上がりませんでしたが、何とか走れる足を作れた、と感じました。
ただ、抗がん剤の副作用は体のあちこちに出てきていました。
頭の毛ばかりでなく、全身の毛根細胞が影響を受けるので、眉もまつ毛も抜けました。走っていると眼を守るものがないため、涙がボロボロ出て来るのです。泣きながら走っている状態です。
また、全身の皮膚の乾燥もひどく、毎晩夫にかゆみ止めクリームを塗ってもらっていました。口内炎はあいかわらずで味覚障害は続きます。何を食べても美味しくない。
体重は抗がん剤治療が始まってから5キロぐらい減りました。
【東京マラソン準備】
2月に入り、最終調整が始まりました。
抗がん剤治療は3週間おきに6回。投与して1〜2週間は警戒時期。熱も出やすく、身体もだるい。
幸い、東京マラソン本番は投与後副作用が1番軽くなる次の投与直前。この時期だと何とか走りきれそうう、と思いました。
自分が普段走るタイムから割り出したマラソンコース上のだいたいの予想時間と到達位置を家族や友人に知らせ、沿道で応援してもらうための準備をします。
エントリー(出場登録)はできるだけ早くする方がいいので、レース3日前の木曜日、午後半日休暇をとってビックサイトに向かいました。
ついにここまできた...そう思うだけでも涙がこみ上げてきました。あとは走るだけ。走るだけです。
【2015年2月22日 東京マラソン当日】
そうして迎えたマラソン当日--2015年2月22日。都庁のスタート地点付近は、がんのことなどまったく知らなかった一年前の初マラソンとは違う光景に思えました。
1年前は、ただその場に立てることが嬉しく、初挑戦のワクワクと多少の緊張と。
2度目のマラソンは、生きることの喜びと人生の深さと...支えてくれた周りへの感謝と。
スタートブロックに並んだとき、「絶対大丈夫」と自分に言い聞かせました。
夫は、「ママは走りきるよ」とこどもたちに言っていました。
そう、もうここに立ったら、あとはどんなにヨレヨレになろうとも、どんなに不格好でも、ただ家族と仲間が待っている38キロ地点にたどりつくだけです。そしてその力は応援してくれるみんなからすでにもらっています。
必ず会いにいく。スタートラインで再びつぶやきました。
号砲が鳴り、5キロ飯田橋あたりでまず最初に家族(夫、長女、そして私の手術の日に生まれた孫息子)の応援を受けました。(家族はその後、地下鉄で移動してお昼などをはさみ38キロ地点の深川中学に向かいます)
10キロをすぎ、15キロの品川をすぎて折り返し。...突然「きよみー、きよみー」という声が聞こえました。その時は誰だかわからなかったのですが、後日わかったのは、私が出場することを知った元同僚がその日、応援のために急遽かけつけてくれていたのでした。彼は増上寺あたりで待機していたようです。
20キロを過ぎ、まだ行ける...25キロ、そろそろきつくなってきたかな。1年前よりペースは落ちているようだけど、うん、まだ大丈夫。
浅草を折り返して30キロすぎ、去年はここからペースを上げることができたけど、ちょっときつい。無理をすると足が痙攣する...とにかくここは淡々と走ります。
35キロ...まだゴールは遠いけど、1キロ7分で走っても20分後には38キロ地点に辿り着くはず。橋を越えないといけないから上り坂。ここだけは歩いてはいけない。歩くと負け。二度と走れなくなる...
一歩ずつ、でも歩かず進みました。
そして、坂道を上りきってやっと見えた「うな勝」のぼり。
心配そうないくつもの目が私をとらえます。そして聞こえてくる仲間の声援。
来た!ついに来た!!
半年の闘いはここに来るためにあったのです。
そしてその先、深川中学校の前あたりには再び家族、そして職場の同僚が待っています。
もう、ここまで来たら絶対ゴールできる。
周りにはもう、歩いている人がたくさんいます。でも、歩きません。一歩一歩、たとえどんなに遅くても前に前にと進みます。
ついに42キロ。
そして...
ゴールしました!!
あとは、打ち上げ!! もう、何の後悔もありません。記録は1年前より40分も遅かったけど、そんなことはたいしたことじゃない。仲間がいて、待ってくれる人がいて、自分は約束を守った。
応援の力がどんなにすごいか、あらためて認識しました。
自分も今後、誰かをこうやって応援していこう。
何があっても、絆を大切にして、がんばる誰かを応援しつづけよう。
ありがとう。ありがとう。ありがとう....
そして、よく頑張った、自分!
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