同年代の中ではトップクラスに頭を下げた回数が多いと思う私の話。8
事件は2度怒る
怒ると起こるをかけてみたのだがいかがだろうか。
そんなことはどうでも良いのである。
そう、事件が起こってしまったのだ。
しかも私の手によって2度目の事件が起こされた。
今思うとどうしてそんなことをしてしまったのだろうかと思う。
お客様は深夜、氷をご所望しておられた。
なので私がアイスペール(スイートルーム用の豪華なアイスペール)に氷を入れてお部屋にお持ちした。
しかしその時蓋を持ってくるのを忘れてしまったのである。
お客様にそのことを指摘されると、とっさに、製氷機に忘れてしまいました。
と嘘をついてしまった。本当は備品庫に置き忘れてしまっていたのに。
お客様二そのことを指摘され問いただされ、正直に言ってしまった。
そうしたらなんとお客様は
うん、お前は正直だな。
確かに忘れてしまって嘘をついたことは悪いことだけど、ちゃんと正直に話したお前は偉いよ。だから俺は怒らないから、ちゃんと自分でそのことを上司に報告しな。
と、言ってくださった。
この当時私が尊敬していた上司はすでに退職しており、事なかれ主義の部下をよく見捨てる上司に変わっていた。
親切なお客様は部屋の電話を貸してくださり、その旨を上司に報告した。
するとなぜか、私が報告したのとは別の上司が部屋に来て謝り始めた。
そこで私は報告した上司がめんどくさがり、大した説明もせず年下の同僚を部屋に向かわせたんだなと察した。
そのことをお客様も感じ取り、だんだんと怒りが湧き上がってきたご様子。
この若いホテルマンが助けを求めて上司に連絡したのに貴様らどういう神経をしてるんだと、上司を諭してくれています。
なぜか私のミスはどうでもよく、その責任のなすりつけあいや体制がおかしいということを懇々とお話ししてくれています。時間は朝の4時。私はあと5時間で退職です。
そうして、お客様の気持ちも収まり朝6時にはお話が終わり、通常業務に戻りますが、その裏では同時に始末書を書いていました。
そう、お客様が、GM(総支配人)が出勤してきたらまた来いとお話しくださったためです。
顛末をGMに報告し、GMと私が報告した上司、部屋に行かされた上司と私の4人でお客様の部屋に行くと、ホテルのVIPラウンジで話をすることになりました。
そこで話されたのは
私(筆者)はむしろ被害者であるということ。
若いこのホテルマンを部屋に行かせて、ミスがあればこの1人にかぶせ、実際の責任者もこず見捨てるという体制がおかしいのではないか?ということをしきりにおっしゃってくださった。
そしてお客様は私と2人きりで話し合いをし、ミスはあったけど、普通ならミスを認めず隠し通すところを正直にそれを告白し、謝ったお前は偉いよ。いいホテルマンになる。ということをおっしゃいました。
この空気で私今日で退職するんです。
なんて言えません。
涙目になりながら
ありがとうございます……
というので精いっぱいだった。
そうするとお客様は何を勘違いしたのか、もし何かあれば俺に言ってこい!と心強いお言葉をかけてくださった。
なんとも頼りになるお客様である。
このことから私が学んだことは
嘘をつくことは全く得にならないが、正直は傷を浅くすることができる。
ということである。
このお客様のことをあまりよく思っていないスタッフもいたが、私はどちらかというと好きな方だった。
おっしゃることは間違っていないし、時々褒めてもくれる。
何より自分の接客を見直すいい機会を下さる。
傲慢になっていないか、天狗になっていないか、このお客様はスタッフのことをよく見ている、と私は密かに感じていた。
このお客様は私のホテルマン人生の中で一生忘れることのできない、大事な大事なお客様うちの1人である。
著者のMizutani Keisukeさんに人生相談を申込む
著者のMizutani Keisukeさんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます