フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第34話

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玲子の失脚

《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、少しずつ頭角を表し店のナンバーワンを目指していた。ところが恋心を抱いていた佐々木が突然店を辞め、店を取り仕切る立場の玲子に裏切られていたことを知った桃子は、玲子をいつか見返すことを誓う。そして、ついにナンバーワンの座を手にした桃子だが、それでは満足できず、本当の意味でパテオの頂点に立つべく、桃子はオーナーの川崎に取り入るようになる。



オーナーの川崎からは、それまでも幾度も声がかかっていた。


ショーの舞台で中央に立つ機会が増えた頃からだろうか


サングラスの下の目が、時折ハンターのように私を狙っていた。



あからさまではないが

黒服を通じて、店が終わったら時間があります?

みたいなことをさりげなく聞かれるようになった。


佐々木が店を辞めた頃からは

オーナー直々に誘ってくることもあった。

「〇〇ってバンド知ってる?今流行ってんだろ。

   そいつら呼んでるからさ、杏ちゃんもきなよ」


帰ろうとする私を呼び止め、手招きすると

ニヤつきながら、あえて軽いノリで耳元で囁くのだ。

「普通じゃ絶対入れないVIPルームだよ」



私は何かと理由をつけては断っていた。

体調がすぐれないので

明日授業が早いので

卒論のテーマを決めなきゃならないので


本当は嘘だった。

学校なんてすでにその頃はもう行ってなかった。


オーナーの権力を持ってすれば

私など、どうにでもできたはずだった。

そうしなかったのは

私にパテオを辞められたら困るからだと後に話していた。



「ったりめーだろ。俺はなあ、お前がそのうち

トップになるって踏んでたんだからよ。金の卵ちゃんだよ。

お前は素朴で優等生っぽいのが最大の売りなんだよ。

そんなまっすぐ大きくなったお嬢ちゃんがニコニコ酒を注いで

舞台上では大胆な衣装で乱れる、それが男心を刺激するってわけよ」


川崎は私の腰に手を回して

いつものドヤ顔をさらに強調させて笑った。

私はその顔を見ながら

力なく調子を合わせ微笑んでいた。


私にも誘いに応じなかったのには訳があった。


簡単に落ちちゃ意味がなかった


うんと待たせて

時間をかけて


自分の店の売れっ子ホステスの1人をやすやすと手に入れ

可愛がってやるという川崎のいつものスケベ心を

どうしても手に入れたい女への執着に変えるまで


そして

機が熟した


そう確信が持てたのが

あの熱を出して倒れた日だった。


歳の割に思いの外、逞しい川崎の浅黒い腕に体を預け

私は覚悟を決めた


私の狙い通りだった。

今までに一度も応じなかった私を

川崎は喉を枯らして待ち望んでいた。


と同時に、恐ろしく勘のいいと噂される彼は

私の下心をちゃんと嗅ぎ取っていた。


さすがチンピラからパテオをここまでにした男だ。


手を腰に回したまま、川崎は言った。


「で、杏ちゃんは何が目的だ?

   俺に抱かれずここまでになったホステスは、数えるくらいしかいない。

   みんな大した連中ばかりだよ。

   アンタの場合、ナンバーワンまでのし上がっておいて

   ここへ来て急だ。絶対なんかあるはずだろ。ホラ、言えよ。

    俺は何聞いてって驚いたりしねえぞ」



私は川崎の目を、意味ありげな笑みを浮かべて見つめた。

オーナーはそれに応えるかのようにサングラスを外した。

彫りの深い目の周りには無数の細かい皺が刻まれていた。


「こうやってみるとお前、綺麗な目だな」


え、と私は目を瞬いた。


「笑うなよ。たった今思ったんだけど

お前なんでホステスなんかになったんだ?

つくづく俺が言うセリフじゃねえけどなあ」


私はまた、顔を上げオーナーの目を見つめた。



「運命のいたずらですよ、ただの」



フン、と鼻を鳴らし川崎は笑うと



「それでナンバーワンかよ、お前は」



「お願いがあるんです」


苦笑している彼に向かってそう言うと、川崎は私を見た。



「ほう、やっぱりそうきたか。で、なんだ…?」

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