お姫さまは、悪い魔女になる。

 お姫さまは、悪い魔女になる。


20歳になって、自由にお酒が飲めるようになった。

お酒が飲めると、夜の街へ繰り出す機会が増える。それだけ交友関係も増える。

子供の頃には許されなかった、夜の外出。大人の遊びにワクワクする経験は、誰にでもあるんじゃないだろうか。


さて、彼とも夜の街で出会った。チェーンの居酒屋で働く彼とは、お店のイベントで仲良くなった。


彼とは10歳違いで、彼はバツイチ子持ち。親権は母親にあったから、彼は一人暮らしだった。

当時の彼の言い分は、「子供のために2度と結婚しない」。

離婚後も学校行事には顔を出し、年に1回は元嫁とその親と子供で食事会の約束もしていた。携帯の待受けも子供。

なるほど 、子供を愛してるということは、彼の発言と行動からよく分かった。

しかし彼も男で、寂しがり屋だった。離婚後にも彼女が何人か居たらしい。

私が彼と出会ったのは、元カノに振られて傷心している直後だった。


彼のどこが好きになったか分からないが、とにかく好きになった。多分、声とか匂いとか五感からの恋心。

2回目に会ったのは彼の仕事中で、友達と飲みに行き、前転しながら告白した。周りは酔っ払ってると思っただろうが、私は本気だった。彼に覚えてもらうためのインパクトが欲しかった。

当然記憶に残り、その夜早速2人で飲みに行くとそのままホテルに行った。


ここまでくれば想像がつくだろうが、セフレになった。ホテルになんか行かなければという思いと、強烈な好きの感情が矛盾を起こしていた。


彼の勤務中に彼の職場へよく飲みに行った。「私が彼のことが大好き」ということは、職場のスタッフと私の友達に共通認識されるくらいラブコールを送っていた。


セフレだが、愛されてると認識できる期間がもちろんあった。何より目を見れば愛されてるかどうかなんて一目瞭然だった。


関係が反転したことにも目を見て気が付いた。


そもそも私が実家へ帰省することになり、彼と会うには片道2時間かかるようになってしまった。

恋人ならそんな時間は関係ないんだろうが、私は明日の約束もないセフレだったので、2時間という時間は関係に溝を生むきっかけの1つになってしまった。

寂しがり屋の彼が会いたいという時間は、決まって深夜か早朝だった。電車もない、家族の目もある、そんな状況では電話もままならなかった。


ある日、今日はスタッフの女の子と飲みに行ったよなんて話が出た。本人はその気はないような感じであったが、のちのち嫌な予感は的中することとなった。


イベントの帰りは必ず彼の家に行っていたのだが、その日は友達との関係も大切にしたいため友達と遊びに行き、彼の家には行かなかった。ここが分岐点だった。


いつものように彼の店に飲みに行くと、スタッフがなんとなくよそよそしい。25歳を越えているようなスタッフはいつも通りだったが、アンダー25歳の女性スタッフが段々と嫌味っぽくなっていくのが分かった。


だんだんと彼と飲みに行く回数は減り、家に行く回数も減った。イベント中に彼と話していると、スタッフに露骨に引き剥がされるようになった。彼からも「いい人はいないのか」とか、「早く彼氏作って幸せになれ」と言われていた。


引き返せないくらい好きという気持ちが膨れ上がって盲目になっていたし、違和感はあっても、理由がわからなかったため何も出来なかった。


ある日、彼から「仕事が忙しくなってきたから、しばらく飲みに行けない」と言われた。

結論をいえば、彼は関係を切るという意味だったらしいが、私はそのままのストレートに受け取っってしまい、矛盾が生じてしまった。


いつまた飲みに行ける?とか、好きとか、私だけが気持ちを膨らまし続けていた。


ガラケーからスマホが主流になり始め、買い替えを考えていた。もう使い始めていた彼にスマホを見せてもらうと、一瞬見えたホーム画面がスタッフの女の子とのツーショットだった。

頭が真っ白になる感覚は、息が止まるとも、意識が飛びかけるとも言える。

しかし私は見えてないフリをして、そのまま会話を続けた。


そのあと友達と「これって絶対付き合ってるよね」という話になり、彼女のことを思い返していた。

彼女は私の1つ下で、そういえば以前はイベントで顔を合わせると名前を呼んで手を振ってくれたりしてくれていたが、最近は素っ気なかった。もともと好きなタイプの女性ではないのでさして気にしてなかったのだ。

しかし最近彼女はよく彼と一緒にいるし、イベント中もよく隣にいる。

もし2人が付き合っていると仮定すると、アンダー25歳のスタッフが嫌味っぽいのや私と彼が一緒にいると引き離そうとすることも納得がいった。


あるイベントの日に、彼に、彼女と付き合っているのか聞いた。彼は否定も肯定もせず、突然大笑いしながら逃げていった。イベント中、彼は私を避けに避け、捕まえるとまた大笑いして無理やり逃げていった。


彼は彼女になんといったのだろうか、それから彼女の方が攻撃的になった。素っ気なく話しかけてもこなかった彼女が突然、当時流行り始めだったFacebookのアカウントを教えろというので断ったら、私の友達にアカウントを聞いていた。私のブログも読んでいるような言動もあり、怖い彼女だなと思った。


その後、彼の誕生日やイベントで彼女は1人で来ていて、別段話すこともなく、私も分をわきまえていた。セフレが彼女に敵うはずもなく。しかし彼女は純粋そうな人だったので、私が手を出さないか、彼が浮気をしないか気が気でなかったのだと思う。


ただ、好きでいるのは私の勝手にさせて欲しかった。

好きだというのはずっと公言していたし、好きな相手に突然彼女が出来て、彼は私には何も教えてくれず、はっきりと私を好きじゃないと切ってもくれない。突然諦められるような浅い思いではなかったのは、言い訳でなく事実だと思った。


段々と季節がすぎる中で、彼の職場の人間も代わり、私と彼の最初の関係を知っていて態度も変わらなかった25歳以上のスタッフが居なくなりはじめた。

アンダー25歳のスタッフが増え、女性スタッフは私を露骨に嫌がった。

当然そんな場所には足が遠のいたが、なんとなく懐かしくなりお店のホームページや写真をネットで漁っていると、偶然彼女のブログを発見した。


そこには私が睨んできただの悪口を言っているだの、小学生のような言い分が書いてあり、そのことを全部彼に話して慰めてもらったと書いてあったのだ。


記事は1年近く経過していたが、身に覚えのない言い草にはらわたが煮えくり返った。でも1年も経っているのだ、私には何ができたのか想像がつかなかった。


彼を忘れるのに5年かかった。

去年、彼は件の彼女と結婚した。彼への気持ちは区切りがついていたが、さすがにその報告を聞いた時は食べ物が喉を通らなくなった。


彼女はどこで調べたのか、私の電話番号からLINEで友達登録してきたが、速攻ブロックしてスパム報告してやった。


そんな私も、来年結婚が決まった。



語り手はいつもお姫さま、

彼女に語られた私は、今もたくさんの人の中で悪い魔女だ。

それだけがただ悔しくて。


これを読んだあなたが、私の目線も知ってくれたと思うと、少し心が慰められるのだ。

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