top of page

17/4/12

フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第37話 最終回

Image by Olia Gozha

ラストシーン 最終回

《ここまでのあらすじ》初めて読む方へ

あることがきっかけでショーパブ「パテオ」でアルバイトをしている大学生の桃子は、幾多の障壁を乗り越え、ついにはナンバーワンの座に上り詰める。桃子はオーナーの川崎に取り入り、強い復讐心と、完全なる頂点に立つため、店を取り仕切っていた玲子をパテオから追い出す。

女王様のようにスタッフ達を意のままに仕切るようになった桃子だが、早くもナンバーワンの座はミユという若いホステスに奪われそうになっていた。焦りと不安が桃子を追い詰め、店では傍若無人さで評判を落とし、彼女は過食嘔吐に陥っていた。

川崎が桃子からミユに乗り換えたことで桃子の転落に決定打が打たれた矢先、ずっと桃子を苦しめてきたあの悪夢が正夢だったことを知る。

逃げ場のない、闇の一本道で突然何者かに追いかけられ襲われる。憎悪の塊のような手に追われ、ついに階段から落ちていく桃子、地の果てまで堕ちていく感覚の中に、どこか、もうこれ以上堕ちることはないのだと安堵する自分がいるのだった。ついに最終回!



やっと…

これでもう終わるんだ。


堕ちるところまで堕ちて


もう、これ以上堕ちることはない…きっと。




…あの夢

正夢だったんだ、やっぱり



地下道へ通じる、闇から闇へと果てなく続くかのような階段






落ちている間、スローモーションみたいに感じた。


激しい痛みが伴ったのは一瞬だけだった。


不思議と恐怖はなかった。




あの黒い憎悪に満ちた手から逃れられたせいか


むしろ安堵感が大きかった。




崩れ落ちるように地面に体を横たえる自分の姿が


なぜか視界に見えた。


地面に体を打ち付けた記憶はなぜか、全くなかった。






私は遠のく意識の中、魂が体から抜けたのだと感じた。






あ…死んだんだ   私


へえ、若くして死んだか


おばさんになる前に死ねて本望かもね…



薄れる意識の中で色んなことにを思ったけど


実際には私は階段から落ちながらもう意識を失っていたのだ。










「予知夢って本当にあるんだって知った」




私は膝を抱えて、控えめに笑った。





「気がついたら病院のベッドの上、にいた?」





私の長い昔話に黙って耳を傾けていた、彼も


さすがに苦いものでも口に入れたかのような顔を向けている。






話しの冒頭辺りでは、やかましく響いていたテレビも


いつのまにか消えていた。






「で、誰か分かったの?その黒い手の正体」






私は首を振った。






「終電もとっくに終わってて

真っ暗で、目撃者もいなかったし」




私を恨んでいる人間なんて挙げたらキリがない。


私に指名客を奪われたホステスたち

それとも復讐した大学教授かも…

もしくは、目障りだからクビにしたスタッフかな…

いや、私を憎んでいたホストかもしれない


それから…




「俺…その玲子さんって人じゃないかと思うな」




彼は、呟くようにそう言った。




「そう…かもね。でも、もうどうでもいいよ、今更」




私は、自嘲気味に笑って彼の方を見た。






彼は神妙な顔で私を見ていたが、すぐに口元に微笑みを浮かべた。






「そっか…こんなにちゃんと桃子の過去のこと聞いたの

初めてだよ。ほんと、なんか…」






「波乱万丈?」






私がそう言って笑うと、彼もつられるように笑った。




その笑顔には、まだ動揺の名残が残っていた。






「退院して、もう未練はなかった?

そこまでしてナンバーワンになったのに」






……未練か


なかったなあ… 不思議と。



悪夢が正夢になったあの夜から、

全治1ヶ月の怪我を覆い入院生活をしていた。

体のあちこちを骨折していた。


そして、憑き物か落ちたように

私は1日のほとんどをボーっとして過ごした。


見舞いには、ほとんど誰も訪れなかった。


むしろ笑いそうになった。

今までは…一体、なんだったんだろう…


多い時は、日に両手じゃ収まらないほどの数の客が

高額な支払いをしてでも私に会いにきたってのに。


客の一人もさえ…

そして、川崎も姿を見せなかった。



まあ、来たとしても


私は面会しなかっただろうけど。




入院中、ただ、ぼっ〜と外の景色を眺めながら


私は改めて、自分がこの2年あまりでして来たこと


そして失ったものを思い知らされた。



除籍扱いになった大学

見舞いに来た母の涙


元クラスメートにとっては、私など

遠い過去に落ちぶれた人間の1人に過ぎないだろう





私は退院すると

大学を正式に退学し、一度実家に帰った。


地元では、片親なのに出来のいい娘と言われていたが

大学を中退した私は、すでにそう呼ばれる資格を失っていた。


しばらくは、まるで出戻ったような気分だった。


でも母の手作り料理や地元の人との触れ合いで

少しずつ安定した心を取り戻し

過食嘔吐をくりかえすこともなかった。


地域のイベントや、母と地元の温泉に行ったりすると

私と同じ歳くらいの女性が幼子の手を引いて

叱り付けていたり、顔をクシャッとさせ幸せそうに

微笑んでいる光景がある。その隣には若い男性が笑っている。



パテオのようなゴージャスでセレブリティな毎日から

完全にかけ離れた

あまりに平凡で質素な生活の中にいる彼ら


でも、そこには眩しいくらいの愛情が見て取れた。

パテオには存在しなかった、分かりやすい

まっすぐな愛が。


夜の闇の中で、まだ親子のはしゃいだり、ふざけあう笑い声が聞こえる。


そんな時パテオは今どうなっているのかなと

ふと思う時があった。


でも不思議と、あの煌びやかな場所に戻りたいとは

少しも思わなかった。




間もなくして開催された高校の同窓会で

当時私に想いを寄せていたと言う男子と親しくなり

何度か誘われてドライブに出かけたりした。


ある時、ふと、このまま、この街で平凡な人生に流されてみようか

と思いかけて、

そして私は急に、入院生活のことを思い出し出した。




そう言えば意外な人物が一人来た見舞いに来たっけ…



夜の世界に入るまで交際していた、拓也だった。



彼は未だに、私のことを売春していると噂を流したことを

悔いていた。

彼は、ごめんな…と言い

そして、来年結婚するんだと言った。


彼のことだ、両親の気にいるような

家柄の良い賢い女性を選んだのだろう。


「おめでとう。お幸せに」と私が素直な気持ちで言うと



拓也は一瞬決まり悪そうな微笑を浮かべ



「お前こそ、幸せになれるといいな。今度こそ。

やっぱりお前には平凡な幸せ似合うよ。俺みたいにさ」



驚いたことに拓也の目には薄っすら光るものがあった。


体のあちこちをギブスや包帯で巻かれた私を前に

同情でもしたのだろうか。

まっすぐに大切に育った彼だからこその


純粋な哀れみの反応なのかもしれない…



付き合っている時、私は彼の何も見えていなかったんだな…


私はそう言う代わりに、少し微笑んで拓也を見送った。





それからの私が、彼の言うような平凡な人生を送ったかと言うと


残念ながらNOだ。




私は、どうやら

どうしても波風の絶えないジェットコースター人生から

逃れられない運命らしい。


ゆえに私の波乱に満ちた半生はまだまだ続く


その話はまた、いずれ話したいと思う。


聞きたいと思ってくれる人がいれば、いつでも

いくらでも、赤裸々に…お届けします。



あ、でも、ほら今はこうして夫に話せるくらい


過去の出来事を、穏やかな気持ちで話せているのでご心配なく。




それに今は私、幸せです。





現在の私といえば


男女の恋愛や結婚についてのコラムを書いたり

自分の経験をフルに生かした、人生相談やサポート



そして、心のケアと、心のつながりをイチバン大切にした

人と人とのマッチング法をお教えしたりしています。


セミナーも開催する予定なので、詳しくは

http://ameblo.jp/maichelle←アメブロ、のぞいてみてください★





本当に本当に、長い間、私の昔話に耳を傾けてくれた人々

ありがとう…

皆さんのこれからの人生が穏やかで平和でありますことを

祈ります。




では、またお会いしましょう。





つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

フリークアウトのミッション「人に人らしい仕事を」

情報革命の「仕事の収奪」という側面が、ここ最近、大きく取り上げられています。実際、テクノロジーによる「仕事」の自動化は、工場だけでなく、一般...

大嫌いで顔も見たくなかった父にどうしても今伝えたいこと。

今日は父の日です。この、STORYS.JPさんの場をお借りして、私から父にプレゼントをしたいと思います。その前に、少し私たち家族をご紹介させ...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、「○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。

「どんな仕事を選んでもええ。ただ、○○がない仕事だけはしたらあかんで!」こんにちは!個人でWEBサイトをつくりながら世界を旅している、阪口と...

あのとき、伝えられなかったけど。

受託Web制作会社でWebディレクターとして毎日働いている僕ですが、ほんの一瞬、数年前に1~2年ほど、学校の先生をやっていたことがある。自分...

ピクシブでの開発 - 金髪の神エンジニア、kamipoさんに開発の全てを教わった話

爆速で成長していた、ベンチャー企業ピクシブ面接の時の話はこちら=>ピクシブに入るときの話そんな訳で、ピクシブでアルバイトとして働くこと...

bottom of page