⑯ 無一文で離婚した女が女流官能小説家になり、絵画モデルとなって500枚の絵を描いてもらうお話 「現在サルサ・インストラクター」

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前編: ⑮ 無一文で離婚した女が官能女流小説家になり、絵画モデルとなって500枚の絵を描いてもらうお話 「切り裂かれた絵」

 

 雪のクリスマスがあけ、翌年新春。

 彼の妻が近くに引っ越してきてから3年目のことです。

「妻がこの家に帰って来るというんだ。仕事も定年でやめたし、別々に暮らしていると家賃が惜しいって」

 アトリエに行くと、彼が話し出しました。

「それもそうね。奥様の意見に私も賛成よ。どうぞどうぞ、そうしたらいいでしょう」

 その頃もう彼の妻は毎晩彼の家で料理を作って彼と一緒に食べていました。

 私は近くのショッピングビルのブティックでパート勤めを始めたばかりです。

 これで彼と別れられる。

 そう思ったのに、彼は奥さんと一緒に住むことをOKしたよと告げたのに、

「そうか、賛成してくれるのか…だけど絵は、どうやって描いていく?」

 と悩み始め、台所からウイスキーの瓶を持ってくると、ぐいぐいラッパ飲みをはじめました。

 こうなると、絵は一筆も描かずに、悩み荒れるのです。

「先生、なんとかなるわよ。絵は別の場所でも描けるし」

 彼をおちつかせようと一生懸命慰めながら、これからのごたごたを察知して恐れた私は、彼から逃げ出す計画を立てはじめたんですーー。


 初春、窓辺にカーテンだけを残して、引越しトラックに荷物を積み込みました。

 彼に引越しを知られないためです。

 荷物を積み終えるまで、彼に見つからないかと、はらはらしていました。

 ベランダからすぐのところに、毎年まるで私一人のためにだけ飾られたような大きなクリスマスツリーの電飾のもみの木が、向かい合うように立って、楽しませてくれていました。

 その公園は美しく整備されているのに、少子化のせいか、いつも人がいなくて、緑の芝生だけがなめらかに向こうまでつらなる、静かな静かな公園だったのです。

 その多摩のマンションともお別れです。

 引越し先はビンボーになっていたので、また小さなアパートです。

 その頃の彼は、

「まち子は昨日12時に寝たんだね。灯りが消えたから」

「昨日はお出かけしていたのかい? 遅くまで留守だったね」

 まるでストーカーのようなことを呟いていたのです。


 トラックが走り出し、街を抜け、助手席で窓から春の風を頬に受けた私は、

「ああ、これで本当に逃れられたんだ。自由になれたんだ…」

 ほっとして安堵の涙を流しましたー。

 彼とは12年間付き合ったのです。

 逃げるように彼の元から去った後、私は小説の仕事はきっぱりとすべてやめ、スーパーで働いたり、マネキンとして働いたりと、懸命に働いて生計を立てました。

 そして数年が過ぎた頃、ダンスと出逢ったのです。

 

 サルサ、社交ダンス、アルゼンチンタンゴ、と踊るダンスの種類が広がりました。

 ダンスは私にあっていたのでしょう。今ではなんちゃってサルサ・インストラクターとして、パーティーを開いたり生徒さんを教えたり。

 社交ダンスの競技会に出場も。

(現在の私)



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