⑮ 無一文で離婚した女が官能女流小説家になり、絵画モデルとなって500枚の絵を描いてもらうお話 「切り裂かれた絵」

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前編: ⑭ 無一文で離婚した女が、女流官能小説家になり、絵画モデルとなって500枚の絵を描いてもらうお話 「突然彼の家に行って見たら」 
後編: ⑯ 無一文で離婚した女が女流官能小説家になり、絵画モデルとなって500枚の絵を描いてもらうお話 「現在サルサ・インストラクター」



 

 だけど彼は、奥様と別れたわけではありません。

 奥様はしょっちゅう彼の家にやってきて、掃除をし、ご飯を作り、一緒に食べて泊まっています。

 そんな中で、絶対に彼とはもうダメなんだ、と悟る出来事がありました。

 

 新聞社の協賛で、「大戦争画展」が新宿のビルの会場で大々的に行われました。

 彼の所属する美術団体が絵を出品したのです。

 その戦争画展に、彼は「帯と女」の水彩画を出すと言い出したのです。

「でも先生、おかしくない? 戦争画展に、あの裸婦の絵じゃあ…」

 非毛氈の上に全裸の女性が寝そべって黒い帯が取り巻いた、美しい日本画のような絵です。

 いくらなんでも裸婦はおかしいんじゃないか。

 さすがに私は反対しました。

 ところが彼は、

「僕はあの絵を、戦死した兄のために描いたんだ。俺と違ってハンサムで心優しい兄だった。武ちゃんはきっと女を描く画家になってくれと、俺に託して死んでいった。 俺は戦死した兄貴への鎮魂花として、あの絵をささげたいんだ…」

 と熱く語るのです。

 彼の熱意に負け、私もしぶしぶ承知しました。

 もう一つ、あの50号の大作は、3年がかりで描いたものの、誰にも見てもらう機会がありません。

 ひっそりと埋もれたままです。

 この機会に人の目に触れたら…そんな思いと欲もちらっとよぎったのです。

 絵画展当日。

 ビルの12階の会場に岡村とともに足を踏み入れた私は、

「あっ」

 と声をあげて立ちすくみました。

 まわりの絵は、戦争の炎や逃げ惑う人々。

 彼の美しい裸婦の絵は、あまりにも場違い。

 恥ずかしさに真っ赤になり、顔も上げられませんでした。

(ど、どうしよう…)

 恐怖といたたまれなさに足が震えます。

 顔見知りの人々が憤怒の形相で取り囲みました。

「岡村先生、なぜあんな絵を出したんですか?」

「頭おかしいんじゃないか!」

「何考えてんだっ」

「馬鹿じゃないのかっ」

 怒号が飛びかいます。

 確かに私たちが非常識だったんでしょう。

「すぐに取り外してくれ!」

 指示されて、会場の係りの人とともに絵を取り外し、裏の暗い倉庫に置いてもらっいました。その絵は彼があとから車で引き取りに行ったのです…。

 帰りの電車の中で、岡村は涙を浮かべながら、

「僕が悪かった。あなたに恥をかかしてしまった…すまない。本当にすまない」

「僕はどう思われてもいい。まち子に悲しい思いをさせてしまったことが、つらくてしょうがない」

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