ジャメイカないす。 -ファンキーな'90年代ジャマイカ旅行記-02 ドロボーは色んな顔を持つ
ダウンタウンへ向かって歩く僕の右脇で、その若いジャメイカンは興味を曳こうと小走りしながら色々話しかけてくる。
「こわがるなフレンド。オレはそのへんにいる悪いジャメイカンとは違うゼ。オレの足を見てみろよ、裸足だろ。ビーチに靴をおいてきたのさ。ここモベイ(←モンテゴベイのこと)はキングストンなんかと違って泥棒がいないからOKなのさ。」
ちょっと胡散臭いが、マッイーカ何事も勉強勉強と話し相手になってやる。
しばらく二人で歩いていると
「あそこに男が立っているだろう、オレの義理の兄だ。」
と言われ道端に立っている男を紹介される。ちょっと眼のキツイ奴だなあ、と思ったが再びマッイーカとダウンタウンへ三人で歩いて行くことにする。
「オレたち二人がダウンタウンをガイドしてやるよ。ん、 金? いや要らないよ、おまえはオレたちのフレンドだからな。」
と二人に言われ、ここで再び思案するもまたもや、“マッイーカ”と奴らにガイドをおまかせすることにした。
ダウンタウンに入りレストランを見てから教会に連れて行かれる。ここでいきなり献金をしたほうが良いという奴らのアドバイス。
実はここで僕が現金を持ってるかどうか彼らにチェックされてたわけなんだけど、そんなこととは露知らず僕は素直に金を払う用意をした。財布を開けようとすると、奴らいわくジャマイカドルじゃこの教会では受け付けないので、米ドルで払えとのこと。わざわざ懐にしまってあった米1ドル札をほじくりだして献金した。
その後、じゃあオレたちの仲間の住んでる場所を案内するよ、と言われ入り組んだ小さな路地を三人で歩いて行った。しばらくして路地からちょっと奥まった小高い小さな広場に連れてかれる。周りは小さな家々に囲まれていて、広場の中心には手動ポンプのある井戸の流し場があり女たちが洗濯をしている。
広場の一番奥にある丸椅子に座らせられ、そこで二人はガンジャを取りだし一服どうだ、と僕に一本勧める。
僕がそれを手にとると義兄だという眼光スルドイ奴が
「このガンジャとダウンタウンのツアーガイドの代金として米300ドル支払え!」
といきなりスゴンできた。それにしても随分と吹っかけてきたもんだ。
広場を囲むスペイン風の小さな家の壁が夕陽に赤く照らされているのが眼に入った。
「話しが違うじゃないか、僕には払う金なんか無い。」
「さっき教会で金を出してたじゃないか。」
しかし実際全財産で米250ドルしか所持してなかった。それもこの一週間分の旅費である。
「おまえ、メキシコのペソを知ってるか? 今あそこじゃインフレで殆ど価値が無いのと同然の通貨だ。ジャマイカドルもペソと同じさ。オレたちの仲間は皆貧しい。金を持ってるおまえがちょっと払えば奴らは救われる。あそこに座っている男がここのボスだ。オレたちが金をとれないとボスに怒られちまうんだよ。」
確かに指差した先の丸太に中年の男が座っている。
そこにもう一人、ちょっと頭は良くなさそうだが臥体のいいTシャツの若い男が加わり、三人で僕を取り囲む。ううむ逃げようにも逃げられん。話しには聞いていたが、まさか自分がこんな目にあうとは!
三人の背後に見えるジャマイカの空は真っ青だった。
結局三十分以上も払え払わないの押し問答をしているうちに奴らもシビレを切らしてきて、じゃあいい米100ドルでいいということになる。金は下着の中にしまってあるので、どこかモノかげで取り出したいと言うと、じゃあこの広場を出たところにバーがあるからということで、そこまで連れてこられる。店の片隅で下着の中にしまってある金を取り出す。さっき空港で両替したばかりのジャマイカ500ドルと米60ドルを取り出す。これじゃあ払いすぎだもんだからジャマイカ500ドルを、バーでビールを奴ら3人のためにおごり両替する。結局米60ドルとジャマイカ270ドル(=約米40ドル)を奴らに支払いここで開放された(ヤレヤレ)。
ご丁寧にも奴らは、小走りにホテルへ向かう僕の背中に向かって
「また面白い所へ連れて行ってやるぜ!」
と、おごってやったビール片手にホザキやがんの。(周りのジャメイカンに脅して金を盗ったように見られない為にやった事らしいが……。)しかし、こいつらに金を脅し盗られた、と周りの誰かに触れ廻れる根性と余裕はそのときの僕には残念ながら無かった。
ホテルに戻った僕は部屋の中で一人暗くなってしまった。
ジャメイカンは誰がいい奴で誰が悪い奴なのか? あと一週間、米150ドルでどうやってヤリクリしようか? 眠れない夜を明かした僕は翌朝、ホテルのオーナーのアドバイスに従って近くのポリスステーションへ行って、被害だけでも報告することにした。うまく警察でリポートを起こしてくれれば、盗難保険も降りるだろうという話だ。
朝のポリスステーション(↑写真の場所)で警官に、恐喝3人組にカネを盗られた成り行きを説明していると、27,8才とおぼしき背広姿でスポーツ刈りの長身の男が入ってきた。
「刑事のライトだ、よろしく。」
挨拶もそこそこに、それじゃあ、今から犯人を捜しに行こうと言って、ポリスステーションの前に停めてあった彼の赤い日本車(型落ちのサニー)の助手席に俺を半ば強引に押し込んだ(さっきまでのホテルでは全く予期していなかった、ややとほほな捕物帳イン・ジャメイカのスタートである…)。
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