海外おひとりさま駐在食べ物記 その2
前回はアメリカのシアトルに7ヶ月駐在した際の話であったが、今度は十数年経て経済が急速に成長していたアジアの都市国家シンガポール。
シンガポールと言えば元々マレーシアとマレー連合を築いていたのだが国のあり方を巡ってマレー系の人々が追い出されて半島の先の小島に中国系の人達が築いた国。
故リー・カンユー大統領の元で経済中心の政治が進められ商業、工業そして金融を中心として発展して来た国。
それまでにも出張で何度か来ていたが駐在するのは初めて。
既に結婚していたが、妻は娘が2歳という事もあり、
「そんな蒸し暑い国は嫌。行ってらっしゃい。」
という事で今回も単身赴任。
初めの一ヶ月は官庁街に近い都心部のホテルで仮住まい。
これが便利でオフィスまで徒歩10分。日本では片道2時間掛かって通勤してたので差は大きい。
夕食を食べるところも日本食レストランが徒歩15分圏に4軒もあって不自由無し。
ホテルの中には無料のジムもあって健康管理も万全。
調べてみるとホテルに長期滞在するのと、コンドミニアムの一室を借りるのはほぼ同じくらいの値段。ホテルだと掃除もしてくれるし。何より通勤が楽。
しかし、いつになるか分からないが日本の家族が遊びに来る時にも備える必要があり、車で15分、バスでグルグルと回っても20分くらいの所にコンドミニアムを借りた。
2ベットルーム、大きな居間付き。シャワールームも2つ。
大きすぎるぐらいだ。
住む所が決まると、やはり食。
今回もシンガポールでの会社立ち上げという事で忙しくなる事が予想された為に外食を選択。
平日であれば会社帰りに近くの食堂に寄るのが簡単。
先に述べた4軒の日本食レストラン。
一軒は地元の資本で従業員も全員地元の人。
ところが皆んなハッピに鉢巻姿。
回転寿司のコーナーがある他、定食やアラカルトを出す。
定食は生姜焼き、寿司の盛り合わせの他、煮魚定食なんてものまである。
シンガポール航空本社の真向かいに位置している事もあって昼時は超混雑。
注文したものの食事が出てこない客が鋭い視線を投げかけて店内が緊張に包まれる事も多々ある。
あとの3軒はオーナーシェフ?は日本人だが奥さんは現地の人。
南の国に流れて来た職人が居着いたという感じだろうか。
メニューは似通っていて各種刺身に寿司。これは色々とランクがあって、イカとか冷凍ものが容易に入手できるものが安く、マグロも赤身はそこそこ安い。しかしこれが中トロとなると急に値段が跳ね上がる。サーモンも輸入品だがお手軽な値段。
そして何故か赤貝がとっても高い。
食事をすると言っても半分は飲み。
有名なタイガービールを2本ほど飲んでから焼酎に移行するのが常だった。
余り変わり映えのしない日本食レストランだが違いが現れるものがある。
それは、ラーメンの汁の熱さ。
シンガポールの様な暑いところだと余り熱いものは食べないせいか(チリのような辛いものは良く食べるが)、ラーメンのスープが生ぬるい。
ところがある日本食レストランはスープが熱い。
それでけで人気店であった。
シンガポール一の繁華街オーチャード通り沿いには夜になると日本人駐在員が寄り集まってくる不思議な所がある。その名もカッぺージプラザ。
一階にはインド人がやっている背広の仕立て屋があり、その他にローカルフードの店やカラオケ、女の子の付くラウンジが一杯。
日本食レストランも多くあるが、驚くのはそのクオリティ。
日本から出張で来る本社のシンガポール法人の担当役員が、「あそこに鯖の塩焼き食べに行こう。」と言う程。確かに縄暖簾の向こうから流れて来る煙と匂いで、「ごっくん」と唾を飲む程。
しかし毎日日本食の居酒屋メニューというのも飽きて来るし、忙しくてサッと食べて帰って寝たいと言う時には、ローカルのフードコートが便利。
ホッカーと言う野外の屋台村みたいな所が一つ。
ローカルのラクサと言う麺や中華、玉子焼き、マレーシア料理の焼鳥みたいなサテーなど結構バラエティには富んでいる。それでいて価格は数シンガポールドルとめちゃくちゃに安い。
ビールも買えるが冷えてはいない。冷たいのが欲しい場合は氷を貰う。
但しこの氷は要注意。食中毒の原因になる事がある。
それに屋外なので暑い。
と言う事でよく行っていたのは住んでいたコンドミニアムの隣にあったショッピングモールの中にあったフードコート。最近は日本のスーパーにも有るような奴。
こちらも種類は豊富で、シンガポール名物チキンライス、牛肉麺、ワンタン麺、それにスシ(敢えてカタカナで書くが)まである。
私が好んで食べたのは野菜と白身の魚を使った鍋の様なもの。
鍋でサッサッと混ぜて一煮立ちさせた後、団体旅行の旅館の夕食で出て来る固形燃料を燃やす台みたいな物に乗せてくれる。
フードコートの中では割と高級品で10シンガポールドル(当時で7-800円)くらい。
周りの人は何も気にしてないが、勝手に優越感に浸る。
体調が本当に悪く食欲が無い時は、オフィスの入っているビルの隣のビルに入っている韓国料理屋で参鶏湯。高麗人参の辛さで食欲を呼び起こす。
その元気も無い時の最終兵器は「吉野家」。
これもコンドミニアムの隣のショッピング・モールの中にあった。
定番、牛丼の他、チキンボールやベジタブルボールがあり、ローカルには何故か茶碗蒸しが人気。
私はもっぱら牛丼派で紅生姜山の様に入れてかきこむ。
唯一残念なのは生卵がない事。
熱帯の赤道に近いところに位置するので衛生上禁止されていると聞いた。
かつて某企業の社長が出張でシンガポールに来たのだが、どうしても吉牛が食べたくなり来店したが生卵がない事を知り激怒。直ぐに秘書にオーチャード通りの高島屋まで買いに走らせたと言うのは当地では有名な話だ。
日本では飲んだ後の〆にラーメンと言うのが定番?だろうが、シンガポールでこれに当たるのがバクテー、漢字だと肉骨茶。
文字通り骨付きの豚肉を大量のニンニク、その他の香辛料でグタグタに煮込んだスープ。
色は麦茶の様な色だが舌触りは割とさらっとしている。
これをインド米を炊いた物にかけて食べる。
香辛料が効いているので汗が出て来る。二日酔いの日の朝御飯にうってつけと言われる。
そんな元は朝食だった物を夜遅くまで売っている店が登場し、店内は冷房がガンガン。
ディスコに行く前のイカシタ若者たちが車やバイクで乗りつけて来る。
シンガポール旅行者でこの肉骨茶にはまるものも多く、そんな人の為か「肉骨茶素」なるものも売っている。
最後になるが私が一番好きだったのはこれ。
土曜日に少し遅く起きた朝、ぷらぷらと10分ほど歩くとローカルの人々が住む団地がある。
その一階に幾つかの店が入っており、お気に入りは「潮州粥」。
いかにも身体に優しい感じ。
お菜も豊富で魚を揚げたもの、野菜を煮たもの等、10種類以上。
それを指差しながら「スモール」、とか「ラージ」とか適当な事を言いながら注文する。
そして勿論、朝からタイガービール。
これらを持って店の外のテーブルで遅い朝食を楽しむ。
周りを見回すと老人がタイガービールの大瓶をチビリチビリと楽しんでいる。
随分と前に仕事を辞めたのだろうから随分と長い間、この様に朝の時間を楽しんで来たのだろう。
独立直後の厳しかった時代も、その後の目覚ましい経済の発展も目にして来ているはずだ。
その遠くを見る様な視線の先には何があるのであろうか。
そんな事を考えながら身体に優しい熱い粥と身体には良くないであろうビールを交互に取りながら、まあトータルはプラスと自分を納得させながら2本目のビールを頼むかどうか悩み続けるのが、凄く贅沢に思えた。
ストーリーをお読みいただき、ありがとうございます。ご覧いただいているサイト「STORYS.JP」は、誰もが自分らしいストーリーを歩めるきっかけ作りを目指しています。もし今のあなたが人生でうまくいかないことがあれば、STORYS.JP編集部に相談してみませんか? 次のバナーから人生相談を無料でお申し込みいただけます。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者のTachibana Toshiyukiさんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます