最愛のビッチな妻が死んだ 第6章

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交際7日目 2月24日


朝11時ごろ、目覚めとともにあげはにLINEを入れる。


「おはよ」

「おはよ。あー、怠い」「よし、今日は酒を抜こう」


外はあいにくの曇り空だったが、僕の顔は晴れやかだった。


「あげも一念発起して帰ろう。帰って綺麗な服に着替えて好きな人に逢いに行く」

「待ってる」


あげはは家で一緒に住んでいるニャンコたちの心配をしていた。元来「犬派」だった僕も今後、1日会えないだけでも充電が切れ、ニャンコチャージが必要な身体になってしまう。


「急いで帰ってる。切ない」「でも共輔んチ猫駄目。この場合の打開策が見当たらない」

「難しい問題だな」


引っ越したばかりの自宅は隣が大家であり、ペット禁止の家だった。


「実家に帰宅。イチャイチャしてる」

「寂しかったんだろうね」

「ごめんと思っている。明日は仕事? 今日はにゃんことイチャイチャして、明日行こうかなと」

「任せるよ。明日も同じような昼から仕事で夜帰宅、だと思う」

「今日行って明日イチャつくか、ちょっと悩んで連絡する」

「両方」


僕は今も昔も欲張りです。


「違う違う。明日イチャつくのは猫と。今日彼氏とイチャついて明日猫とイチャつくか、今日猫とイチャついて明日彼氏とイチャつくか」

「わかってるよ~」

「どうしたら、両方と毎日イチャつけるかなと思って」

「猫と住みたいんですって、大家に袖の下を」

「むう……ネコとあげとギター、悪くないな。むしろサイコー」


ニャンコ画像が続々と送られてくる。


「長女のノンノンが共輔に逢いたいって」

「キレイなコだね」

「あげの娘だから」


交際から1週間が経ち、僕たちにお義父さんの承諾が出た。


「あー、太一から伝言。いらない服と靴くれたら交際を許可するって。身長体重ほぼ一緒だから大丈夫って伝えてと」

「いらない服や靴か。趣味も似てるのかな」

「似てる。話を聞く限り似てるって」

「一回挨拶には伺うつもり。あげの家族なわけだし、会ってみたい」

「話が合うと思うよ。多分あげよりww」

「かもねw」


初顔合わせの前から、写メで太一さんの顔は知っていた。人によっては僕と太一さんはそっくりに見えるらしく、外見で間違えられたことは何回もある。

太一さんはあげはの最初の旦那で、15年一緒に暮らしてきた唯一の家族である。僕は、そんな太一さんに尊敬や嫉妬、好意や興味を併せ持っていた。

さらにLINEは続き、あげはからの質問。


「ギター、どんくらい弾ける?」

「まったく弾けないと考えてください」

「アンプは?」

「1個あるよ」

「『高等遊民』のギターに選抜されたので、今度特訓しましょう」

「いつの間にw」

「高等遊民は見た目がよい人しか入れないバンドなので。おめでとうございます!」

「おもしろそうだな」


高等遊民とはあげはのやっているバンドだ。あげはがギターボーカル、太一さんがベース、ギターがヤスシさん、ドラムがトムさんの4人編成らしい。


「SEKAI NO OWARIピックで世界の終わり弾くのにハマっている」

「セカオワ、全然通ってないな」

「いやいや、ふつう通らないでしょ」

「セカオワでミッシェルの『世界の終わり』弾いてんの」

「ヒドい話や……」

「本物の世界の終わりを知れーー!」「そして世界が終わった」

「お疲れ様。あげがおらんと部屋が広く感じるように」

「うん」


僕たちはいつだって2人でいないと気が狂いそうだった。

かつては仕事が第一で、好きな仕事でメシを食っているという優越感と恍惚感だけで、安い給料や刑務所並みの労働も楽ではないが楽しんでいたし苦ではなかった。気づけば、あげはといる時間以外は正直、「早く終わらせてあげはに会いたい」と願うようになっていた。


「今日は夜通しニャンコに罪滅ぼしをして、明日帰る。でも良い?」

「よいよ。明日、原稿の締め切りあるから遅くなるかもしれない」

「了解」

「食べたいものとかある? 新婚ごっこして待ってる」

「米と……なんだろ」

「ガスコンロが出てないのを知ってるから、できれば作って持っていけるものがよい」

「あげが一緒に食べたいものがいいな」

「じゃ、なんか考えとく。香辛料たっぷりのやつを!」


僕は料理をする習慣がない。1人でいると食べるのがめんどくさく、カロリーメイトやウィダーインなど簡単に食えるメシで済ませてしまう。たまに急激な食欲に襲われて食べても、太るのがイヤという不安と食べ過ぎてしまった後悔ですべて吐いてしまう。

15歳くらいから、完全に摂食障害者として20年以上暮らしてきた。人生の半分以上、摂食障害とともにしてきたが、あげはの料理は吐いていけない、僕のために作ってくれた料理はおいしいと思うようになるまでに時間はかからなかった。


「今度のお休み、ガスコンロ出そう。料理なら永遠に等しくしてたいくらい好きだし、外食ばっかはお金かかるし、何より食べてほしいので」

「ガスコンロ、鍋用のはあるよ」

「一口か。一口のしかないのか!」「たとえばハンバーグだとして、ハンバーグ作ってソース作ってスープ作ってって、一口コンロでする大変さを知るがよい!」

「IHとガスコンロ、一口ずつしかない」

「今度買おう。そんな高くない気がしてきた。amazonさん」


あげはの魔法のような愛情というスパイスは、僕の摂食障害者としての恥ずかしい一面を完全に直してくれた。


「したい時に仕事をし、遊びたい時に遊び、飲み、踊り、楽しい人生を送っていたけれど、そこに共輔が加わって今のあげは無敵よ」

「仕事の合間にギター弾いてみよう」

「頑張れ高等遊民」


僕たちは「世界の終わり」まで一緒にいて、「世界の終わり」は2人で迎えたい、そう願っていた。

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