第6話 スーツ禁止。

前編: 第5話 改革開始
後編: 第7話 いざっ最初の勝負!

「あのねぇ、いくら社長の命令でも、聞けない指示もありますよ!」


ある日、Y部長は、「ちょっといいですか?」と、見るからに怒り心頭と言った様子で、文字通り体育会系といったガッチリとした体を揺らしながら、非常階段にある喫煙所で、タバコをふかしていた僕の所に詰め寄ってきた。


「一体、なんなんですか?あの改革のテーマ?『目立ったもん勝ち』とか『スーツ禁止』とか・・子供に聞かせる運動会のテーマじゃないんだから、ほんまくだらない。あんたも社長なら、もう少しまともな改革の指標を出してくださいよ!」


社長就任から数ヶ月、池袋にある本部は、いつも一触即発のような、ひりついた空気が漂っていた。
事の発端は、僕が就任早々に打ち出した3つの改革のスローガンにあった。


【目立ったもん勝ち】

【スーツ禁止】

【アパレル路線強化】



社長に就任してすぐに、僕は一人でオフィスの壁の1番目立つところに、A4のコピー用紙に1文字づつ「目 標 1 0 0 店 舗 達 成 ! ! 」と書いて貼り紙をした。そして更にその下に3つの「改革のスローガン」を掲示して張り出した。他にもブログや、会議の席上、社員との個人面談の場、etc…。とにかくありとあらゆる場面で、呪文のようにこの3つのワードを唱えては、全社員に強く意識するように促していた。

しかし、僕のこの3つのスローガンに、当時の営業幹部であった部長達数名は、真っ向から反対して明らかな不信感を露わにしていた。
特に僕の改革に対して、憮然とした感じで面白くなさそうにしていたのが、このY部長だ。


「何じゃぁ?お前、やるのか!やらんのかぁ!一体どっちやぁああ!」


Y部長は、こんな感じでドスの効いた声で顔を真っ赤にしながら電話口で、店長達を怒鳴りつけていた。この一喝で、大半の若手社員は雷にでも打たれたように、思考停止し、ロボットのように声も出さずに慌てて指示通りに仕事をする。そんな光景が、本部の一角で毎日のように見られていた。

カリスマ経営者であった故中内氏が1代で築いた日本有数の巨大小売企業ダイエー。そのダイエーで部長職に付いていたY部長ら数名は、その鍛え上げられた営業手腕を買われ、オンデーズへと転職してきていた。

Y部長は、部下が少しでもたるんでいると、声を荒げて怒鳴りつけ、成果を出すと「ようやった!!」と満面の笑顔で褒め称える。まさにアメと鞭を巧みに使い分けながら、軍隊のような絶対的上下関係を植え付けて仕事を進める、所謂「昭和の日本型サラリーマン」を地でいくような人だった。

しかし、正直こういう上下関係の構築の仕方は僕が一番苦手なタイプだ。なので度々、電話口で怒鳴りつけるY部長を目にすると



「そういうやり方は古いし、オンデーズの社員から個性や覇気を奪う大きな要因になっていると思う。Yさんにとっては“御しやすい”部下に仕立てられるので、都合が良いかもしれないが、僕が作りたい会社のカルチャーには合ってないのでやめてほしい。」



そんな苦言を呈しては、度々意見を衝突させていた。
僕よりも一回り以上も年長で、日本人なら誰もが知る大企業の部長職を経験して、オンデーズに転職してきていたY部長は、子供にも近い年齢で、突然自分の上司として現れた僕に、自分の仕事の仕方を注意されプライドを傷つけられたのか、明らかに面白くないといった様子で事あるごとに僕に喰って掛かってきていた。



「わかりましたよ。部下に対する態度はできるだけ気をつけますよ。それはまだええとして、あれは一体なんなんですか?あの改革のテーマ?
『目立ったもん勝ち』とかね、ほんま意味わからんわ。
子供に聞かせる運動会のテーマやないんだから、もう少しまともな改革の指標を出してくださいよ。この会社は、財務だってメチャクチャでしょう。もっと他にやらないかんことがあるんとちゃいますか?

はっきり言ってね、私は騙されたと思ってるんですよ。『上場に向けて体制を強化して欲しい』と前の経営者達にお願いされたから、数ある大企業のオファーを蹴って、こんな小さな会社に来てやったというのに、いざ来てみれば、会社の中身はボロボロ、誘ってきた経営陣達は1年もしないうちに逃亡。新しく突然現れた若い社長は、訳もわからず無邪気に『目立ったもん勝ち!』とか言うてるし。こんなふざけたテーマに、一体どんな信念と計算があるって言うんですか?そんなこと言うてる間に、この会社は潰れてまいすよ!」



Y部長は明らかに不満を爆発させていて、丸太のような腕を組んで僕を睨みつけてきた。
さすがにスパルタで有名な全盛期のダイエーで、部長として幾千の相手と渡り合ってきた40代半ばの不惑男には、全身に凄みが漲っている。この鋭い眼光で睨みつけられれば、普通のサラリーマンなら縮み上がってしまうのも頷ける。
ただ、僕もこの時、30歳と世間的には若い社長だったかもしれないが、それでも20歳から会社を経営していて、10年間は小さいながらにも死屍累々の世界をくぐり抜けて会社を経営してきていたし、その道中、反社会勢力に脅かされたり、元ヤクザを自称する社員から凄まれたりと、それなりの経験も数多くしてきていたので、この手の「高圧的な、わかりやすい威圧」にはもう慣れっこだった。

(この手のタイプには、同じテンションで言い争ってもダメだなあ。余計に感情的になり話に収集がつきずらくなる。)


そう考えながら、僕は静かに、なるべくY部長の感情を逆撫でしないように、淡々と自分の主張を諭すように語った。



「別に、聞きたくなければそれでいですよ。嫌なら会社を辞めたらいいじゃないですか?この3つのスローガンは自分なりに、きちんとした考えと信念があって決めたことなんで変えるつもりはありません。オンデーズを生まれ変わらせるには、まず社員を生まれ変わらせなければならない。別に冗談でもなんでもないですよ。
メガネ屋だけに限らず、世の中の全てのお店は、お客様にまずその『存在』を知ってもらわないといけませんよね。せっかくお店を出していても、誰にも気がついてもらえなければ、お客様は来てくれませんよね?」


Y部長は口をへの字に曲げたまま、うなづきもせずに睨みながら聞いている。


「何か欲しい、あれを食べたいと思った時に『確か、あの辺にそのお店があったな』と思い出してもらえなければお客さんはやって来てくれません。逆にその時に、思い出してもらうことさえできれば、来店してもらえる確率はかなり上がる。すなわち、商売は目立たなければ何も始まらないという事です。これは異論あります?」


いきなり話を振られ、一瞬Y部長は返答に詰まりながらも答える。


「いや。そりゃそうでしょう。それやからこそ、ウチも店は目立つ場所に出しているし、5千円、7千円、9千円というスリープライスで解り易い『安さ』という、最高に目立つ看板を掲げて商売を展開しているわけや。もう十分やってますよ。」


「目立つ場所と、目を引く安ささえあれば、お客さんがやって来て商売は成功するんですか?それならなんで今、大型のショッピングモールで閑古鳥が鳴いて閉店してしまうようなオンデーズのお店が、あんなに沢山出てるんですか?」


僕の矢継ぎ早の質問攻勢に、不快そうに顔を歪めるY部長だったが、渋々と答える。


「それは総合力でしょう。モノが売れるかどうかは商品力、値付け、接客が全部揃って初めて上手くいく。そのどれかが欠けただけでも、商品はうまく売れませんからね。」


「そう。まさに、その通りの事を僕も思っていたんです。つまり、僕も接客の大切さを指摘してるんです。じゃあ接客は誰がするんですか? もちろん、店頭に立つスタッフですよね。そのスタッフが目立とうとしてくれなかったら、どうなります?お店も目立たなくなってしまうじゃないですか。 

世の中の会社同士は、常に『目立つ為の競争、目立ちたがり合戦』をしているわけだから、その会社を動かしている社員達自身が『目立つ事』から逃げてしまっていたら、その企業は、企業同士の目立ちたがり合戦には絶対に勝てないんですよ。そして、どんなに良いサービスや商品を用意することができたとしても、まず最初に、お客様に自分たちの存在に気づいてもらうことが出来なければ全部が無駄、台無しになってしまう。違いますか?」


僕は、タバコの火を消し、なるべくY部長を感情的に刺激しないように、低いテンションも保ちつつつ、さらに続けた。


「人にはそれぞれ持って生まれた性格ってあるじゃないですか? 生れながらに目立つ事が得意な性格の人もいるけど、そうでない性格の人も大勢いる。僕は『仕事は持って生まれた人格でするものじゃない。仕事用の人格を作ってするものだ。』そんな風に考えてます。
つまり、客商売とは、上手く人目を引いて、華やかに目立つ事が求められる仕事なのだから、アピールの上手な人格を作って仕事をする必要があると思うんです。

それに、お店のことだけでなくて、僕の言ってる『目立つ』という言葉には『もっと自己主張をしなさい』っていう意味も込められているんです。困ったり、悩んだりしていても、誰かが気付いてくれるのをじっと待っているだけではだめなんです。自分で考え、行動して、自ら解決しようとして行動に移さなければ、誰も手を差し伸べてくれないし、その人も成長しない。世の中とはそういう厳しいものでしょう?黙ってても誰も助けてなんてくれやしないんです。

今までのオンデーズにも皆んな不安や不満が沢山あったのに、自己主張も問題提起もしようとしないような風潮が蔓延していた。ただ黙って、上からの指示を待ってさえいれば、それなりに給料がもらえる。そんな生ぬるい空気があった。だから、会社がここまでガタガタになっているというのに、誰も自分で何とかしようと行動に移さなかったんでしょう。

そもそも、悔しくないんですか?このオンデーズという会社は、まるで物のように売り買いの対象にされていたんですよ?
それも、この本社のすぐ下の喫茶店でそんな生臭い相談が連日のようにされていたんですよ。創業者の放漫経営のシワ寄せでコストを切り詰められ、汚くてダサい店、品質の悪い商品の中で、みんなは働かされて来たんですよ。本部のスタッフ達が何も気づかないはずはないでしょう。なぜ誰も声を上げなかったんですか?」



「なんや、その言い方は!社長ねぇ、あんたの言いたいことは解りますよ。でもねそんな若者の理想論みたいな話、現実の世界じゃそんな簡単に通用なんてしないんですよ!」 


Y部長は癇に障ったのか、顔を真っ赤にして猛然と反論しきた。


「いいですか? 社長ね、私たちは、実際に今、このやり方で年間20億円を売っているんです。この数字は決して悪くはない。営業の状態だけ見れば本来ならば、買収されるような会社なんかじゃないんですよ。悪いのは、その売り上げからきちんと利益を出せなかった、創業者や経営能力の無い今までの経営陣達でしょう!
ならば、新しい経営者のアンタが、まず真っ先にしないといけないのは、商品の調達方法を見直して原価を下げたり、融資の金利を下げさせたり、あらゆるコストをカットして、利益の出る財務体質作りに着手するのが、今真っ先に取り組まんといけないことやないんですか!

とにかく、売上が出ている以上、私は今までのやり方を急に変えさせられるのは心外だ。長い経験を積み上げてようやく出来上がりつつある今のシステムを、いくら社長とはいえ、昨日今日来た、素人の思い付きでかき回されたんじゃたまったもんじゃない。自分で考えてどんどん自己主張しろ?まあそれでもええですけど、その結果、命令系統が混乱して組織がバラバラになって、売上が下がったらどうするんですか?そうなったら、全部、アンタが責任取ってくれるっていうんですか? 

私たち庶民にはねぇ、生活があるんですよ。家賃やローン、公共料金は毎月決まった日に引き落とされるんですわ。そのためには、毎月決まった日に、決まった額の給料が必ず入らなきゃ困る。そして、そのためには、安定した売り上げが絶対に必要なんや。安定した売り上げを上げている今のシステムをぶっ壊して、新しいやり方に変えました、はい売り上げが落ちました、はい給料が遅れます、それじゃダメなんですよ!社員の個性や自己主張を、とやかくいう前に、社長ならもっと経費を削減して安定した利益を出すことだけを考えて行動してくださいよ!」



この時、僕は少し(そうかもしれない)と思った。もちろん社員の給料は、滞りなく確実に振り込まなければ、全員が困る。給料を安定して全国のスタッフに支給する為には、安定した売り上げが必要なのも理解できる。曲がりなりにも決して良い売上げではないが、今は安定した売り上げを維持しているのも事実だ。そのやり方を根本から変えることには、大きなリスクがあるのかもしれない。


(でも、やっぱり違う・・)

少し冷静に考えてみたが、僕は自分の主張を曲げたくはなかった。



「Y部長の言う事は良く分かりました。でも、そもそも大事なことが抜けています。」



「はぁ大事なことってなんですか?」



Y部長は、濁った眼をギロリと僕に向けた。


「オンデーズは、もう実質的に倒産しているんですよ。Y部長達は、俺を目の敵にして馬鹿にしてますけど、よく考えてくださいよ。もしも、俺が買収に手を挙げなかったら、今頃この会社は良くて民事再生。悪ければ破産ですよ。そうなっていたら、Y部長が言う『統率の取れた組織も、20億の売り上げ』も、もうとっくに消し飛んでいたんですよ。違いますか?」


一瞬返答に詰まるY部長を一瞥して、僕はさらに話を続けた。


「つまり、昔のオンデーズはもう死んでいるんです。現在のオンデーズは新体制のもとに新しく生まれた全く新しいオンデーズなんです。新生オンデーズには、伝統も何もありません。俺たちが、ゼロから創る全く新しい会社です。過去にとらわれず、時代に合わせて、より良い会社を作ろうとしているんです。

例えるなら、古い家が地震で潰れて、その場所に、また古い家の材料を使って、もう一度家を建てなければいけないとしたら、また同じ間取り、同じ構造の家を建てますか?その方が楽ですけど、その家は、また地震が来たら同じように潰れてしまうでしょ。

同じ材料を使いながら、より地震に強い家を建てようとしませんか?さらに、どうせ新しく建てるならもっと快適な家にしようとするはずです。同じ材料を使うにしても、そのままではなく鉋をかけて表面を美しくしてから使うでしょう。それが、僕が今やろうとしている事なんです。

Yさんの意見は、地震の前は立派に建っていたんだから、地震の前の家に戻せばいいと言うのと同じです。実際には地震で潰れているんだから、欠陥住宅だったんですよ。何か重大な欠陥があったから、オンデーズも倒産の危機を迎えたんです。この現実を受け止めるところから、俺たちは始めなければダメなんじゃないですか?」



Y部長は、一番痛いところを突かれたといった表情で反論に窮していたが、やがて吹っ切ったように、さらに語気を荒げて反論してきた。



「若い人が聞いた風な事を言わないでもらいたい!!それじゃ、まるで俺たちがオンデーズを潰した張本人みたいやないですか?冗談やない!俺たちは、アンタが六本木あたりでチャラチャラ遊んでいた時から、がむしゃらに働いてきたんだ。
それこそ、土を掘って基礎を埋め、柱を一本一本担いで、この家を立ててきたんや。それを、アンタがたは出来上がった家に後から土足で上がり込んで来て、雨風を凌いでもらいながら『あそこが悪い、ここがダサい』と偉そうに文句ばかり垂れている。まったく、苦労して建てた家を乗っ取られた気分ですよ。本当に不愉快だ!私はハッキリ言ってアンタがこの会社を再生させられるとは、到底思えない。悪いが引き継ぎが終わり次第、先に辞めさせてもらいますよ。」



こうして、結局このY部長は最後まで、僕の考え方を理解してくれず、オンデーズの再生に関しても少しの希望を見出そうとはせず、数ヶ月後にさっさと退社していった。

そして、更にその動きに前後して本部の管理職や中堅社員たちは、立て続けに辞表を僕に提出してきた。多分、僕が来たときからすぐに就職活動を始めていて、転職先のあてが決まった順に辞めて言ったのだったのだろう。

当人たちは、辞意を告げにくる際に

(ふん。どうだ?会社の運営の中核を担っている俺たちが辞めていって、お前はさぞ困るだろう?)

といった雰囲気だったが、この時、僕と奥野さんや再生の為に乗り込んできた面々からすると



「人件費が自然と削減できて良かったねー。これで改革に非協力的な人がまた一人減ったから、改革が進むなぁ。」



と正直、安堵したという気持ちの方が大きかった。資金繰りに困窮しきっていて、一円のお金でも惜しいこの時期、僕の方針に賛同してもらえない人を社内に起きながら、しかも決して安くはない給料を支払いながら、討論を戦わせている余裕は僕たちにはなかった。まずは1日でも早く、完全に一致団結して同じ方向に向かっていかなければ、再生の可能性はどんどん遠のいていくだから。




せっかくなのでついでに、もう少しだけ、この時掲げた改革のスローガンに関して話そう。

「目立ったもん勝ち」を推し進める中で。僕がオンデーズで一番最初にうるさく、全社員に強制させたのは2つ目の「スーツ禁止」だった。

これは「目だったもん勝ち」という理念を行動で表すためにとても必要なものだった。サラリーマンにとってスーツは「隠れ蓑」のようなものだと思う。これをまとえば周囲に埋没し、気配を消すことができる。目立たないことの極致。だから、スーツを禁止にしてしまえと僕は考えたのだ。


それに、スーツを禁止されると、毎朝会社に行く前に『今日は何を着て行こう』と考えざるを得なくなる。今日誰と会うか、天候はどうか、帰りに服でも買いに行くか。など、ほんの1分だけでも、毎朝自分の「見られ方」に意識を向けて考えるようになる。これだけでもう、頭のウォーミングアップになるのだ。頭が活性化された状態で通勤すれば、いつもと同じ通勤路でも、自然と新しいことに気付く事も沢山出てくる。「あの洋服カッコイイな」とか「今はこれが流行っているのか」という風に、ファッションにも敏感になる。それが、仕事に対する取り組み方にも大きく役立つはずだと、僕は考えていた。

「スーツ禁止」というのは、何も考えずに、毎日毎日同じことを繰り返すような生き方をしないでほしいという事だ。いつもアンテナを立てて、時代の空気に敏感である為には、制服のように思考停止して毎日着込むスーツなんて脱ぎ捨ててしまいなさいというわけだ。

それに「自分たちは、今までになかった社風を作り、時代の最先端でビジネスをして行くんだ」という、一種の僕の決意表明でもあった。

しかし、最初の頃は何度「スーツ禁止」と叫んでも、ほとんどの社員がダーク色でヨレヨレのスーツを着て頑なに出社してきていた。
堪りかねた僕は、言うことを聞いてくれずにスーツで来ることをやめようとしない人達を、朝、本社から追い返したり、店長会議の時に、スーツで着た店長を会議室から追い出し参加させなかったりした。今話すと冗談のようだが、「習慣を変えてもらう。」というのは、それだけ細かなところから厳しく真剣に取り組まないと、なかなか実を結ばない。



3つ目に掲げた「アパレル路線強化」の意味だが、これは、当時の僕の好みで最後にもう一つ付け加えた。

まず何よりも僕自身がカビ臭さい職場では働きたくなかったし、一日の大半を過ごす場所が職場なのだから、お役所のような暗くて無個性な職場はまっぴら御免だと思っていた。若者が憧れるような、そんなキラキラした場所で働いていたい。子供から「働いていているお父さんカッコイイ」と言われるような、自分たちの会社をそうい職場にしたい。そんな想いを強く持っていた。

僕は、この時期、毎日20時間近くを会社や店舗で過ごしていた。昼間は店舗を周り、夕方からデスクで仕事をして経営に関係する仕事を片付けた後は、深夜に新しいPOPやWEBのデザインを作ったり、店頭ツールの見直しといったクリエイティブ関連の仕事を全部して、終わったら全国の社員に向けてブログを書く。(勿論、当時はまだFacebookもTwitterもなかったので、全国のスタッフに対して簡単に発信できるツールはブログぐらいしかなかったのである。) 
全て終わって、気がつくと深夜の2時か3時。それからそのまま会議室の椅子を並べてベッドを作り、その上で仮眠を取って、7時に自宅に戻ってシャワーを浴びて着替えをして、10時から仕事を再開。そんな毎日が続いていた。

日々の業務量は、倒れる暇もないほど膨大であったが、僕は自分自身がクリエイターとして、オンデーズにまつわる、ありとあらゆるデザインを作り上げていく事に、言葉にできない程、深いやりがいを感じていたし、それまでまともに社内で「デザイン」と呼ばれる業務をしてこなかったオンデーズは、僕が来た事によって、初めて社内に本格的な「デザインチーム」を持つ事になり、そこから今ある「ブランディングGP」に至るまでの様々な要素が育っていくことになった。

時間を見つけて自宅に戻り、シャワーを浴びて着替えをして戻るのにおよそ3時間。この間だけが会社を離れる時間。だから、陰気で地味な会社は嫌だな・・早くおしゃれな会社にしたいなぁと思いながら、毎日仕事をしていた。アパレルやIT業界のような活気があってファッショナブルな職場にしたいと思いながら毎日働いていた。

店舗で働いているスタッフも、少しでもカッコイイお店、お洒落な職場で働く方が嬉しいにきまっている。友達が、自分の働いているお店をみた時に「カッコいいね。お洒落だね。」と言われるようなお店の方が、今のカビ臭くてデザイン性の無い店舗で働くより、プライドを持って働ける。そして、その自信や誇りが、お店に漂う空気となって現れるはずだ。そうすれば、その明るいハツラツとした空気が、お客様にも伝わり、店内へと自然とお客様を沢山引き寄せるようになるんだ。そう僕は考えていた。

その為には、お客様を引き寄せるカッコイイお店を作る前に、まず自分自身達がカッコよくならなくちゃダメなんだと。そんな想いを詰め込んで「アパレルとしての眼鏡屋を目指す」と掲げていた。


しかし、本社の中高年の部長達から反対されるのは何となく想像していたが、店頭に立つ若いスタッフ達は皆んな喜んで、賛同してくれると思っていた。でも僕の思惑とは裏腹に、このスローガンは3つとも当時、全国の多くの若いスタッフの間でも、かなり不評だった。

特に「アパレル路線強化」は一番、スタッフからの反感を買っていた。

「社長はメガネ屋としての「視力矯正」という一番重要な要素を軽視して、メガネ屋をバカにしている。」

そんな風に多くの社員たちから言われていた。この批判に、僕は当時猛烈に反論していたが、今思い返すと、メガネ屋を経営していく上で、一方で正しくこれは的を得た指摘でもあったのかもしれない。


「視力矯正」


眼鏡屋にとって、何よりも一番重要な、このキーワードを、僕はまだこの時点ではちゃんと理解してはいなかった。頭では解っていても、心では何も解っていなかったのだ。
その考えを改めさせられる、とんでもない出来事が、この3年後、僕たちを容赦なく襲うことになる。 



続きのストーリーはこちら!

第7話 いざっ最初の勝負!

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