最愛のビッチな妻が死んだ 第28章

前編: 最愛のビッチな妻が死んだ 第27章
後編: 最愛のビッチな妻が死んだ 第29章 僕たちの罪と罰

「西荻夫婦読みたい」

「何してても辛い」

「暑いっす」

「自分限界っす」

 夜中、あげはからのLINEが止まらなかった。僕は入稿日で締め切りが重なっているため、会社に泊まりがけで作業しており、具合の悪いあげはのそばにいられなかった。

「ごめんなさい」

「アタシはシオリじゃない」

 あげはの落ちてる理由は前妻について考え込んでしまったからだった。

「シオリのかわりでもない」

「わかってるよ」

「寂しさの穴埋めをするためにいるわけでもない」

 僕がどうしても亡くなった前妻へショックを受けていることを感じたあげはの不満が爆発した。

「愛する人が死んだら、同じ気持ちになれるなら。太一に死んでもらう」

「同じ気持ちを味わっても」

「そしたら気持ちは対等でしょ」

「死者は生き返らないし、誰も喜ばないし、悲しむ人が増えるだけ」

「知らねーよ。じゃあ生きてるアタシのことをもっと考えろよ。死んだら終わりなんだよ」

 僕は僕なりに、10年間は付き合った前妻がいなくなったことへの気持ちをうまく消化できていないことに気付いていた。一緒に生活している敏感なあげはにとって、それは非常に苦痛であったのだ。

「生半可な気持ちで小林の家を出たワケじゃないけど」

「辛い」

「もう」

「傷が深くなる前に」

「出て行った方がいいのかな」

 あげはからのLINEは止まらなかった。

「なんでそうなるわけ」

「アタシは人より壊れやすいよ。ずっと長いこと病んでて。もう隠し切れない」

「こんなことで壊れる関係性なら続かないよ。僕はショックを受けることも、ショックを受けてないふりも、強がることも以前の生活を続けることもできないのなら」

「聞きたくない。出てくから、わかった」

「本当に出てくの」

「嘘だよ出て行かない。エイプリルフールだから」

 優しい、誰も得しない、そしてその嘘が嘘であることもお互いに知っていた。

「好きなの」

「それでも」

「じゃあ」

「信じて」

「ちょっと論点ズレてんだよね。別に信じてないワケじゃない。無神経だっつってんの」

「それはわかったから。じゃあ全部全部、正直に話さない方がいいの?」

「相談する相手が間違ってるでしょ。なんて言ったら正解だったの? 運転してた男を殺したいの、正解を教えてよ。あるならね」

「殺せばいい」

「そう言ったじゃない。でもアタシが悲しむにアタシに逢えなくなるから実行にうつさないなら」

「正解で終わった」

「それはアタシに言う必要のない話。自分は気持ち良く終わって、アタシは殺せばいいという嘘をつくのに」

「つらかった」

「ごめん」

「殺したらアタシは逢えなくなるし。アタシのための殺しじゃないからアタシは嬉しくない。好きな人が元嫁の為に人を殺すのをどうしていたらいいの」

 僕は現在の正直な気持ちを話してと言われ、バカ正直にあげはに語ってしまったことを後悔した。

「必要な話は事後報告、不必要な話はアタシにする」

「そんな強くも」

「無神経でも」

「ない」

「アタシは人だし」

「生きてる人だし」

「アタシが知らないアタシを知ってる元嫁が、ズルいなって思ってたら死んだから」

「自分を責める日も多い」

「アタシが知らない共輔を、か」

「それで突然泣いたり、悪夢を見たりするけど」

 まだ具合の悪いあげはに慣れてしない僕はただ謝ることしかできなかった。

「同じ罪悪感を僕が感じてて、隠し続けてた。ごめん」

「アタシのせいで死んだんだって思ったりする日も」

「アタシは共輔との楽しい時間の方が大事だから」

「共輔に言ったりはしない」

「それは、隠してるワケではなくて」

「今、必要でないと感じるから言わないだけ」

「自分のせいでって、共輔の方が感じてることくらい」

「わかるよ」

 僕は極力、あげはの前で前妻の話をしなかった。ちらりとでも思い出を匂わす品はすべて捨てた。形見にもらった結婚指輪も処分した。

「話題自体を言わないようにするのはワザとらしいし、周りに伝えてない事実はいっぱいあって」

「その周りは、アタシも含まれんの?」

「これからは含む。もう忘れる。ごめん、もう忘れた」

「話が噛み合わないね。別の事について話し合ってるみたい

「少しでも気分を害すなら、話題自体をしない」

「気分を害すっていうその考え方がまずアタシとは違うから」

「あげに、じゃなくて。腫れ物に触るようなタブーな扱いをしたくないから」

「時間が解決するって、あげはこのことについて、太一にしか相談したことはないけど、大地も共輔も時間が解決するって」

「話題をふられないと自分からはしない」

「アタシは時間が過ぎんのを日々待ってんの」

「共輔が寝た後、時計の針を見ながら待ってんの」

「一秒でも早く過ぎて欲しいと」

「忘れて欲しいってことじゃなくて」

 あげはの悲痛な想いに僕はどう言っていいのか戸惑っていた。

「同じように日々生活して、あげとの生活を大事に大切に過ごしたいだけ」

「解決が何をさすのかよくわかんないから。信用してる1人が口を揃えて言う」

「もう解決してる」

「時間が解決? それがくんのを待ってんの?」

「気持ちの解決。みんな勘違いしてるけど」

「時間、気持ち、そんな目に見えないもののことはアタシはわからん」

「離婚する時に死ぬほど話し合い、」

「うん」

「喧嘩し合って、円満にお互いの幸せになるように」

「別れた相手が」

「先に死んだからって」

「毎日毎日、泣いて、そいつのことばかり考えて、グチってキレイな思い出ばかり思い出して、」

「普通の生活送れないようなヘタレなら」

「笑われるんだよ」

 珍しく僕は一方的にLINEを送り続けた。

「ごめん、ちょっと意味がわかんないけど」

「シオリに。」

 沈黙が流れ数分後、あげはからLINE。

「勘違いしてるのは何を?」

「だから、もう解決してる。周りはこの話題に過剰に反応してるだけで」

「共輔がアタシといることで楽しいとか嬉しいとか思ってくれたらいいと思ってるけど」

「死んでても死んでなくても一緒な気持ちだし」

「でもアタシは今ちょっと不幸せだから。」

「新年度から気分が最悪」

「この際全部言うけれど」

「アタシはアタシの要望が通らないなんて信じられない」

「それでも共輔が好きだから」

「人生で初めて我慢を覚えた」

「要望を全部応えられないと付き合えないわけ」

「応えてもらえなかったことがないから。って言うか、共輔が好きだから、我慢を覚えたって言ってるでしょ」

「今までの人と比べてってこと?」

「強いて比べるならば格段に好きよ」

「我慢を覚えたことが苦痛なのか、よいことなのかがわからない」

「我慢を覚えて無かったらもう既にここにいない。先月からいない」

「ありがと」

「いやいや、何円満解決っぽくしてんの。あげは気持ち悪くて仕方ないからね」

「僕もそうですが」

「一緒にい過ぎとかかな、いったん実家帰ったりしたら、何かどうにかなる?    

 離れてわかる有り難み的なのって存在すんの?」

「離れてみないとわからないけど、今もありがたみは感じてる」

「じゃあ、久々にクラヴ行って玉でも喰ってハッピーになってくるわ」

「玉ラブ」

「死んだ夢見たのに生きてる」

「帰ったら」

「殺して欲しい」

「福島で、殺したいって言ってたのは」

「誰のこと?」

「あげか」

「自分だ」

「じゃ、殺して」

「まだ続くであろう、楽しい日々を完結させる理由ができたら」

「今死にたいから殺してっつってんの」

「死にたい理由があるわけ」

「生きる理由が見付からないわけ」

「見付ける気持ちがないから、終わらせたいの?」

「それがアタシの生き方だ」

「それを僕に言うのは無神経じゃないわけ?」

「殺したいっていうのと、殺されたいっていうの。需要と供給が成り立ってるじゃない」

「楽しみたいっていう僕の希望は無視されてるけど」

「生きることや楽しむことを続けていきたいと思ってるから、殺しても仕方ないと思ったわけで。死んだら終わり、なんでしょ?」

"

「会社?」

「まだ会社」

「お疲れ様」

「仕事が終わらんくて」

「ゴメンね、ちょっとだけ遠くに行くよ」

「わかったよ。ごめんね」

「またね」

「どうしていいのかわからないよ」

 僕は本当にどうしていいか分からなかった。

「そうだね」

「別れたいか」

「別れたくないかだけ教えて」

「まだ一緒にいたいか」

「もう一緒にいたくないかだけ」

「教えて」

「好きか」

「嫌いかだけ教えて」

「アタシが貴方にとっての何かだけ」

「教えて」

「好きだよ」

「1番大事な人」

「一緒にいたい」

「じゃあなんでそれができないの」

「アタシのせいか」

「アタシは我儘?」

「甘やかされて育った自覚は有るけど」

「どっちのせいでもない」

http://j-lyric.net/artist/a006a7c/l004123.html

http://j-lyric.net/artist/a04f581/l0251db.html

「どっちも」

「じゃあ何のせい」

「アタシの願いは容易く叶うものばかり

「帰る」

「はい」

「気を付けて」

 家に帰ってもあげははいなかった。

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最愛のビッチな妻が死んだ 第29章 僕たちの罪と罰

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