技術経営(MOT)との出会い

前話: 想像と創造 「技術者、研究者にとって一番大切なこと」
次話: 経済学部への編入学「理系から文系へ」
「この研究は本当に世の中で使えて価値があるものなのか?」
高専での研究活動を通じて常に考えていた。
「2番じゃダメなんでしょうか?」
科学者、研究者の世界では1番でなければ価値が認められない。
まだ誰も手掛けていない新しい発見を、誰よりも早く世に出すことが彼らの存在意義だ。
だからこそ寝食を惜しんで研究に熱中、没頭する。
ただ、単に新しいこと、革新的でパフォーマンスが優れていたとしても全て役に立つとは限らない。
世の中に受け入れられ、広まってこそイノベーションだと。
研究も一般的にみると自己満足の世界で「それって意味あるの?」という感じになってしまう。
研究で扱っていた空間7R機構の最大の弱点は、構造が複雑な上に自由度が限定されることによる摩擦ロスが大きさ。
確かに既存のスターリングエンジンの制御の問題を解決することはできたが、
生産やメンテナンスのコストが実運用上で見合わないことが明白だった。
実際にジョイント部分は負荷が大きく、ベアリングを何十種類も取り寄せて試行錯誤し、
動力学的なバランスを考慮した設計もモーター代数を使った理論計算通りにいかず大変苦労した。
スターリングエンジン本体はもちろんリンク機構も一から手作りしたので、
理論の検証も含めて一から自分たちで手を動かしたからこそ身に染みたことだった。
悶々としながら過ごしていたある月曜日、学校の図書館で日課にしていた日経新聞を開いているとある新刊の本の紹介に目が留まった。
東京大学におけるMOT(技術経営)教育の一講座をまとめた本で、帯に書いてあった言葉が衝撃的だった。
「理系+文系 ハイブリッド人材が経営を変える」
よくわからない衝動に駆られて放課後すぐに本屋に直行して本書を買いに走った。
リスクマネジメントとかファイナンスとか、知的財産マネジメントとか当時は読んでもさっぱり内容はわからなかったが、ただ一つ理解できたことは「せっかく生み出した技術を経営に生かせない=製品化して価値に変換できていないことが日本の産業、工学の競争力を落としている」ということだ。
世の中に求められているのは技術を理解し、生かすことのできる二刀流人材。
当時は、MOT教育の黎明期。
自分の問題意識は間違っていない、世の中で求められている人材像に挑戦しようと。
進路も決めていなかったのもあり「誰もやってないなら俺がやる」と根拠のない確信だけを頼りに新しい挑戦を始める決意をした日だった。

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経済学部への編入学「理系から文系へ」

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