もう40年も前の、学生運動の話 第七回
とりあえず、デモでも!
行動隊が戻ってくるまで、本当は何もすることがない。責任者が出てこない限り、話は何も進まないからだ。
だからといって、このまま何もせずにブラブラしていたのでは、せっかく集まった全学の注目が散ってしまう。
時間的にも昼近くになっていて、学生も揃った。ならここは、今の状況をアピールしに、学内デモにでも行くべぇか。ということになった。
デモのやり方なんかは、セクトの連中のマネである。事情も知らずにとりあえず大学に出てきた女子も巻き込んで、学科の旗を先頭に隊列を組む。
あるセクトのデモ列を露払いに。別のセクトのデモ列を後衛に。なんか、真打になった感じ。
う~む。一番デカい旗作っといて良かった。
しかし一学科ということで、人数不足の隊列になることは避けられない。
横一列を8人とかにしてしまうと・・・、縦は10列ほどにしかならない。
デモとして一番見栄えのする「ジグザグデモ」は蛇のようにウネウネするところがポイントなのに、ウチの隊列は長さがないのでウネウネにならない。
ただ学生の四角い固まりが、道幅いっぱいを右に行ったり左に行ったり。まるで腕を組んでつながった酔っ払い集団の千鳥足。これはちょっと恥ずかしい。
ただ・・・男女比はほぼ5対5。時代的に、ミニスカート全盛時代。ジグザグの時は、列を壊さないように前のやつの腰を持つ。
はい、ご想像どおり! 女子の後ろに男子が群がる。
「お前! ウチの学科ちゃうやんけ! 」というのも含め、デモ列は男子・女子・男子・女子の層になる。
そんな不純な動機がわかりやすく形になったデモ隊が、とりあえず文学部エリアから出発していくのだった。
え? これ、全学集会ちゃうん
デモ隊は、まず経済学部・法学部エリアを通って、体育館をめざす。どうも体育館には「支援集会」というのが開かれていて、各学部の連中が集まっているらしかったから。
デモ隊が、別の集団の中に入っていく時、ちょっとした儀式のような動きがある。先頭の旗を水平に前に突き出し、デモ列も頭を下げて戦闘突入の形をとるのだ。
もっともこれは僕たちの露払いをしたセクトが、過激な戦闘集団だったからかもしれない。
僕たちは、そういうもんだと思ってマネをした。
体育館前には、入りきれなかった学生が集団となっていたが、まずこれに対して戦闘突入の形をとった。こいつらの中を通らないと、体育館に入れないから。
そしたら、これがウケた。
「戦闘力」を誇示することでデモ隊を他の集団に認知させようという行為なのだが、これをミニスカートの女子いっぱいのデモ隊がやったのだ。
「華やかな戦闘部隊」。ウケないわけがない。
その戦闘突入態勢のまま体育館へ。
ウォーっという声が上がり、中を埋めていた学生が二つに割れる。
え。ちょい待って。この人数・・・。
ステージの上の看板に、「全学」って入ってない?
なんでここまで手回しよく?
と思いながらステージ上を見ると・・・。
いました。ウチの有名人が。
またアイツ、かりんと袋ごと食ってるし。
僕たちを迎えるウォーっという歓声で
体育館は揺れているようだった。
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