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大恋愛  ②

Image by Olia Gozha

ようやく僕を僕だと認識した彼女。ふと見ると、指先が震えている。正直、僕は指先どころか足先も、口元さえ震えていた。

僕と彼女は30年前、一生分くらいの恋愛をした。お互い愛し、愛され、傷付き、傷付けて、そして結局、離れてしまった。

お互い、若さと未熟さと不寛容さと不実さで、一緒にいることの意味やその「特別さ」を信じることができなくなっていた。結局、二人が辿りついたのは「離れること」だった。

もちろん、当時の僕と彼女の恋愛が人生における唯一無二の「大恋愛」なのだと妄信している訳ではないし、そんなに「純愛」を神聖視してもいない。

この30年の間で、僕も彼女も互いに伴侶をもち、子を儲け、互いに人生の機微を味わいながら歳を重ねてきたのだ。

しかし、そんな僕は30年ぶりに彼女の姿を見て、彼女と言葉を交わし、その結果、指先や足先が震えてしまったし、彼女にとっての僕も「笑って会釈」して見過ごせる相手でもなかったようだった。

「あの…、今日は初めてで…、えっと…」僕が言葉に詰まると、彼女は努めて冷静に、「あっ…、こちらの料金体制は…」と、施設の説明を始めた。その説明は実に堂に入っていた。それはつまり、彼女がここでキャリアを積んできたことを示している。

心臓の音が彼女に聞かれそうなほど鳴り続けている。

このあと僕は何を話したのか、何を話されたのか分からないまま、気が付くとゴルフクラブを握りしめていた。

まだ指先の震えは止まっていなかった。僕も、彼女も…。

…to be continued



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