安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年vol.01 「出発」
2019年が明けた。暖冬だとは言われているが、朝の空気はやはり冷たい。
でも、それも、今は、透き通った清々しさとして感じることができる。
去年は何かといろいろあった。まさかの北大阪、北海道で地震があった。
台湾で1度、インドネシアでも2度、地震が起きた。異常気象といわれ、西日本は豪雨に襲われ、その被害も癒えぬ間に、大きな台風が4つも関西を直撃した。
それでも街は、いつもの年と同じように、クリスマスの飾りをさっさと片付け、来年こそは…と希望を持って、新しい年を歓迎した。
僕の相方の豊も、年が変わるのを待ちわびていた。
2019年1月23日、豊がソロになって初めてのCD 「360℃」が、発売される。
この音源には、僕も参加しているので、まぁ、いわば、僕にとってもソロデビュー盤ということになる。
ようやくここまで来た…そうだ、ようやくスタートを切ることができる、というこの気持ちについては、間違いなく豊も同じだと確信している。
思えば、この1年は豊にとって、これまで自由に広げてきた人生が突然ぎゅうっと圧縮されるような時間だった。
その圧力で、周囲が混沌として、息をすることさえ苦しいと感じるくらいだった。
何もかもすべてが思い通りに進まない…自分が万能だなどとは、決して思ってはいなかったが、することなすこと全部が壁にぶち当たると、やはり心が塞ぎがちになるのは、致し方のないことだろう。
豊は、僕の肩に手を置いてよく深いため息を漏らしていたが、僕も、同じようにただため息をつくだけで、どうにもできないままだった。
自分の周りを深いモヤが取り囲み、何も見えないことが不安で、苦しくて、何とかならないかと両手でやみくもにかき混ぜてみるものの、状況は何も変わらない…そんな場面をイメージしてもらうと、わかりやすいかもしれない。
今は、モヤが晴れて、スタートラインがはっきりと見える。
洋々たる前途と明確には言い切れないとしても、その位置に立って、旅立つ朝のように、これから起きる出来事に思いをはせる豊の姿を、僕は誇らしく思っている。
豊との出会いは、2016年の夏、8月の末頃だった。
夏の終わりのビル街に暑い空気が立ち込める日、豊は彼の先輩ミュージシャンと一緒にやってきた。
東京のとある楽器店にいた僕を、積極的に豊に紹介してくれたのは、彼の先輩の方だった。
といって、僕が彼の先輩と親しかったかといえば、そうではない。
彼の先輩とも、初めて出会ったのだが、先輩氏は、妙に僕を気に入ってくれて、並んでいるほかのギターの中から僕を引き寄せると、僕の弦をかき鳴らしながら、豊に僕と組むように熱心に勧めてくれた。
僕の奏でる弦の音が、彼の音楽的ハートをつかんだということなのだろう。
豊は、ほとんど先輩氏の言う通りに、僕を連れ帰ることを決め、そうして、僕は、楽器店から豊の元へと引き取られていった。
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