安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 vol.07 「紹介」

前話: 安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 vol.06「ここから」
次話: 安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 vol.08 「サッカー」

その日の午後、豊は僕をケースに入れて連れ出した。


連れていかれた先は、神戸のスロープというライブハウスだった。


神戸は、北側に連なる六甲山脈と南側に横たわる瀬戸内海の間に開けた街で、山と海の真ん中あたりをJRの線路が走り抜ける。


神戸の人々は、JRの北側を「山側」、南側を「海側」と呼び、文字通り、山側へは坂を上っていくことになる。


スロープは、最も賑やかなJR三ノ宮駅と、坂を上りきったところにある洋館の立ち並ぶ北野町の中間にあった。


「おお、これが昨日、買うて来たギターかぁ


と言いながら、ギターケースを開いたのは、豊より少しほっそりした顔だちの青年だった。


「そやねん。ええやろ。」


豊は、自慢げに僕を取り出すと、彼の前で僕を抱えて、つま弾き始めた。


ケースを開けた細面の青年が、豊に合わせてパーカッションを入れ始めた。


豊が歌いだす。


「くだらない夜にうごめいて白んでゆく (から)くは無い方が好み」


妙に耳に残るフレーズだった。


ああ、彼が「松田礼央」か確かに、彼のパーカッションは、僕を気持ちよくさせてくれた。


「チキン、これで行く?」


礼央が豊に尋ねた。


チキンって


これで行く?って


「どないしょうかなギブソンのんが、慣れとうしいや、でも、これも使いたいし


豊の答えで、「これで行く?」が僕を指していることは分かった。


どこだかはわからないが、どうやら僕をライブに連れて行ってくれそうな話で、ワクワクしたのを覚えている。


その後の豊と礼央の会話で、「チキン」の正式名称が「チキンジョージ」であること、三宮でも有名なライブハウスであること、そして、豊と礼央がお互いを信頼し合っていることがわかった。

 

そして、僕は、スロープで、初めてのライブを経験した。


豊と礼央、彼らは2ndLEG(セカンドレグ)というユニットを組んでいた。


昨夜、ギブソンが話していた「2人で何かやりたいなぁ」と言っていたことは、こうしてカタチになったわけか、と僕は、納得していた。


ライブを終えて、帰宅し、豊が僕を置いて部屋を出ていくと、ギブソンが「お帰り。どうだった?礼央にも会ったんだろ?」と話かけてきた。


僕は、その日、スロープで見たこと、聞いたことをギブソンに話した。


「あのぉ~、くだらない夜にうごめいて白んでゆく 辛くは無い方が好み っていう歌、知ってます?」


僕は、あの妙に耳に残る曲のことを ギブソンに聞いてみた。


「ベベドールだよ。スペイン語でね、『吞兵衛』って意味さ。」


「スペイン語ですかぁ?」


「そう、豊が高校進学よりサッカー留学を選んだって話、ちょっとだけ触れただろう?覚えてないかい?」


「えーっと、駅に路上ライブを観に行こうって、マサシさんに誘われる前の話ですよね。」


「覚えているじゃないか。そうそう、豊はサッカー少年だったのさ。」


続きのストーリーはこちら!

安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 vol.08 「サッカー」

著者のKeiko Nishiumiさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。