家族の崩壊 1 「今夜俺は、親父をぶっ殺す!」

次話: 家族の崩壊 2 「空白の一年間、親父の黒歴史」
もう親父の全てが嫌いだった…。 

仕事を終え帰宅してきた親父が、玄関を開けて入ってきた瞬間から嫌悪感は増す。 

鼻歌が嫌い。 
足音が嫌い。 
意味不明な独り言が嫌い。 
襖の開け方が嫌い。 
靴下の脱ぎ方が嫌い。溜め息が嫌い。 
煙草の吸い方が嫌い。 
祖母との会話は更に大嫌い。 

アンタら夫婦かよ…。
いつもそう思っていた。 

うちの家庭の崩壊を招いたのは間違いなくこの親父だ。 
所帯を持ってもロクに働きもせず、毎日々々弁当箱片手にギャンブル場通い…。 
住んでたアパートは追い出され、祖父が建ててくれた二世帯住宅の二階に住みながら、給料は全て遊興費。 

金がなくなると祖母にたかるか、サラ金に手を出し、またギャンブル…。 
そしてまた借金。 
祖母はそんな親父を一切責めず、母親のせいにした。 

いつだったか、多分、小学校に上がる前後だっただろうか… 
母親に呼ばれこう言われた。 

明日からうちは一切贅沢は出来ないからね! ウチにはとんでもない借金があるんだからね! 

その表情から余程大変な事態なんだという事は解った。 
しかし、それでも親父は度々給料をギャンブルに注ぎ込み、給料日の夜は遅くに帰宅し、『給料を落とした…』 
と嘘をつく。 
俺はすぐに自転車に乗り、給料を探しに行く! と言って家を飛び出す。 
無ェから行くな! と親父はいつも怒鳴ったが、あるはずもない給料を俺は延々と探し回った。 

そしてお袋は俺が17の時に男を作って蒸発した。 
蒸発する直前に、お袋に男がいる事が発覚したが、もう思い出したくもない程の修羅場の日々だった。 
あれだけ真っ直ぐだった弟でさえ、不良グループとつるみ出した。 

完全なる家庭崩壊。 

お袋が出ていってからの親父は腑抜けになった。 
呑めない酒をがぶ呑みし、馬鹿野郎…などと言いながら酔い潰れて帰宅する姿を見る度に心が荒ぶった。 

俺は完全にこの男を軽蔑していた。 

そんなある日、今となっては何を言い争ったのかは忘れてしまったが、親父と言い合いになった。 
そして親父にこう言われた。 

テメェこの野郎! ヤッパリあの女の血を引いてやがんな!? 


完全に我慢の限界を超えた。 

俺はその晩、玄関脇にある木製バットを手にして、二階で眠る親父の寝室へと通じる階段を昇った。

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