第36話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
わたしはスポーツジム内のスパで働いています。職場入り口付近の巨大ポスター。
躍動感溢れていて、大好き。
第36話
わたしの転機1 「犯人は誰だ?」
アリッサがカミングアウトして約2年間、わたしはどん底をさまよっていました。楽しい出来事があっても、笑っているわたしを別のわたしが冷めた目で制御する。「どうせ幸せになれないよ。笑う資格なし」と。
家族連れを見かけると、羨ましくて。「普通の家族」を羨ましがっているそんな自分が情けなく憎らしかった。
「自分は不運で、不幸で、これからずっとどん底」と信じてた。
そんなわたしを変える転機がやってきました。
わたしはその頃、市内の体操教室に通っていました。体操教室とはわたしが勝手に付けた名前。教室の本当の名前は “Body & Brain”。日本では「イルチ・ブレインヨガ」として知られています。韓国人のIlchi Leeさんがはじめたヨガとタイチの動きを取り入れた脳活性化プログラム。友人に誘われて教室に通うようになりました。
この体操教室で、ある日、 アリゾナ州のセドナから脳活性化プログラムの大先生を迎え、「精神を鍛え、真の自分を発見する」と題したセミナーが開かれました。体操教室の先生の強いすすめで、わたしも参加することにしました。
セミナーの最後にみなが座禅をくみ、瞑想するなか、大先生が韓国訛りの英語でみなに聞きます。
“WHAT DO YOU WANT IN YOUR LIFE?”
“WHAT DO YOU WANT?”
「あなたは人生に何を求めているのか?」
「何がほしいのだ?」
熱のこもった大きな声で同じ質問を何度も何度も繰り返します。
しばらくすると、静だったスタジオ内ですすり泣きがはじまります。すすり泣きはやがて号泣にかわり、大勢の参加者が大声をあげて泣き出したのです。
わたしは正直、こわくなり、逃げ出したくなりました。
「新興宗教?」
「カルト?」
講師の大先生や、体操教室の先生方に失礼にあたらないよう 、最後までなんとかふんばったものの、セミナー終了後は挨拶もそこそこ逃げるように教室を後にしました。
帰宅後、湯船に浸かりながら、大先生の質問を胸のなかで繰り返してみました。
「わたしは人生に何を求め、なにを欲しているのだろう」。
答えは簡単でした。
「わたしは幸せになりたい」
「わたしは家族を幸せにしたい」。
そのときわたしは気がついたのです。犯人が誰なのかを。
アリッサじゃない。アリッサのカミングアウトのせいなんかでもない。
2年もの間わたしを苦しめ不幸にしていた犯人は、このわたしであることを。
続きは次回に。
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