第37話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
梶井基次郎の短編小説、「檸檬」とか、米津玄米師の ”lemon”とか、レモンにもいろいろあるねえ。
When life gives lemon, make lemonade.
わたしの好きな英語の諺です。
直訳すると「苦いレモンを与えられたら、甘いレモネードに変えちゃおうね」。
レモンは苦い思い、つらい出来事の例え。レモネードはポジティブな結果の例え。
「転んでもただで起きるな」と訳す場合もあります。でも、 高山愛的には「辛い体験をして辛酸をなめても、その体験から学んだことを活かして、一回り大きな人間になって、人生を楽しんじゃおうね」と訳したい。
学生時代から好きだった諺。自分が実際、ものごっつい困難にぶつかったとき、レモンをレモーネードに変えることがそう簡単にはいかないことを痛感した。
(何度も書きますが)アリッサがカミングアウトして約2年間、わたしは深くて、真っ暗な穴に落ちて、暗闇をさまよっていました。きっかけはカミングアウト。でも、穴に自分を閉じ込めていたのはわたし自身だった。自分を不幸にしてた犯人は自分だったことにやっと気付いた。
脳活セミナーの先生の” What do you want in your life?”という質問がきっかけで。
わたしは幸せになりたいのに、そして家族を幸せにしたいのに、自分で幸せの道を閉ざしていた。
トランスジェンダーについて学び理解する時間はたっぷりあったのに、それを拒み、パートナーの話に耳を傾けることをせず、真剣な話し合いを頑に避け、いつも仏頂面をして、泣いてばかりいて、家族に辛い思いをさせていた。楽しいことがあって、心が浮き立ちそうになったときも「おまえには幸せになる資格がない」と自分を再び暗い穴に蹴落としていた。アリッサじゃない。犯人はわたし。
その夜、わたしは決意したのです。「自分の人生を変えるために、まず自分が変わるんだ」と。
トランスジェンダー関連の本や記事を読み、知識を得て、アリッサの気持ちをもっと理解しよう。アリッサときちんと話し合って、お互いの気持ちを確認しようと。
一大決心した翌朝、わたしは小さな嵐を起こしました。
出勤前のアリッサ。服装はいい感じ。でも髪はいまいち。もっさい感じ。普段だったら、ほっておく。でもその日、わたしは自分から買ってでて、アリッサの髪の毛をくるりんぱのクシャッっとしばりにアレンジしたのです。
アリッサの表情がぱっと輝きました。それを見ていた娘たちの目がキラッと光り、ふたりの顔が笑顔でいっぱいになりました。娘たちは大急ぎで子供部屋に戻り、リボンやら、髪飾りやらをごっそり持ってきて、「今日のアリッサの服にはこの色のリボンがいい」と大騒ぎをはじめました。
わたしはそのときね、2階の寝室にかけあがり、トイレに駆け込んで、ばかみたいに泣いたのです。トイレの壁に頭をゴンゴンぶつけて、嗚咽したのです。
わたしはバカ者でした。家族のみんなを笑顔にするのは、こんなに簡単なのに、ちっとも気付いてなかった。なんの努力もしなかった。
これがわたしの転機。わたしたち家族の転機。わたしはようやく気付いた。そして、今までの自分のすべてを壊したくなって、人差し指を空にさし、引き金をひいて小さい嵐を起こした。急には変われない。でも風向きが変わったのはこの日から。
次回は「わたしが立ち直れた理由」。
わたしの転機2 “When life gives lemon, make lemonade”
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