家族の崩壊 9 「初めて見た蒼白き蛍の群れ」

前話: 家族の崩壊 8 「夫婦喧嘩を見るのがとても嫌だった」
次話: 家族の崩壊 10 「稼業の人と遊び回る日々」
前に書いたこうじくんが引っ越してからしばらくして、ある三兄妹が新たに近所に引っ越してきた。 
この三兄妹の話しは、後日少し書こうと思うが、この兄妹達が俺と仲良くしてくれたので、ほんとに当時は嬉しかったし、もし彼らがいなかったら…と思うと、もっと悪さをしたのかな? って思う。 

何だか今振り返ると、毎日、誰と遊ぶかばかり考えていたと思う。
家にいたらいたで母から、お前はやっぱり誰からも相手にされないのか!とかグチグチ嫌味を言われるから家にいたくないし、言われなくたって家にはいたくないから外に出るしかない。 

夕方の五時過ぎでなければ祖母もパートから帰ってこないし、居場所がなかった。 

いつも夜になると夕飯のみ二階で済ませ、すぐに祖母のいる一階にいく。 
寝る時だけまた二階に上がるか、もしくはそのまま一階で寝る。 
朝はまた二階に戻る。 
二階には食事か寝るかしに行くだけだった。 
学校に登校するような感じで二階に登校する感覚だった。 
苦痛に耐える場。
それが二階だった。 


その頃親父は、長距離トラックの運転手をしていたが、借金を返済する処が、一機30万近くもする無線機を何台も購入し、トラックだけでは飽き足らず、自宅にも無線機を何台も購入しては持ち込み、無線をしていた。 

トラックに載せてある無線機と合計すると、相当額の金を遣ってしまっていた。 


更に週末になると、いかにもトラック野郎といった感じの、菅原文太の映画で観たような荒々しい人達が集まってきた。 

俺としては、その人達がくるのは嬉しかった。
その人達がいる時には、俺はひっぱたかれもしないし、小遣いをその人達がくれたから賑やかで楽しかった。 

けど母はどうだったかは分からない。 
少なくとも、相当額の金を無線機に使った事で夫婦喧嘩は増えていった。 

その中でYさんという無線仲間の人がいた。
Yさんは他の人達に比べ比較的優しい顔つきの人だった。 

Yさんは週末になると、頻繁にうちに遊びに来ていた。 


ある夜、こんな事があった。 
Yさんが奥さんを連れて二階に遊びに来てるというのに、親父はYさん夫妻をほったらかしにして一階にある風呂にいってしまったのである。
しかも風呂から出ても、祖母と話をしていて小一時間は帰ってこない。 

母やYさん夫妻の様子を見てると、Yさん夫妻は何やら真面目な(多分深刻な)話をしにきていた。 

過去にもそんな事が数回あったので、母はYさんに謝った。 
だがYさんがこういってたのを俺は隣の部屋で聞いてしまった。 

『いいんだよ奥さん。うちらは奥さんと話をしたくて来てるんだ』 

親父は相手にされてなかった。 
確かに友人が来たのに風呂にいって、しかも祖母とくっちゃべってるような、借金を返さなきゃならない立場の人間なのに、無線機を何台も購入するような、そして母から言わせれば、今まで何の苦労もなく生きてきたお坊ちゃんみたいな男に、誰が深刻な話をしよう? 
洩れ聞こえた話しでは、Yさん夫妻の将来の事や、Yさんちもお金が苦しい…みたいな話をしていた。 
そんなYさんなのに俺と弟にいつも千円ずつ小遣いをくれた。
今思うと、Yさんにとって、なけなしの金だったんだと思う。 

ある夜、Yさん夫妻がホタルを見に、俺達家族を連れてってくれた事があった。 

生まれてはじめて見たホタルは、漆黒の闇に幻想的に光っていて、とても綺麗だった。 

そのYさん夫妻も、やがてこなくなった。 

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家族の崩壊 10 「稼業の人と遊び回る日々」

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