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安本豊360℃ 歌に憧れたサッカー少年 Vol.12「スペイン」

Image by Olia Gozha

豊は、そこに居るワクワク感を感じられなくなることがなんだかもったいない気がして、眠りたくないと思ったが、しわ一つなくピンと張られたホテルの白いベッドシーツに自分の体の形をしたくぼみを作って横たわると、意に反していつの間にか寝入ってしまっていた。


翌朝、ホテルの部屋から明るくなった街を見た時、豊は初めて自分が「スペイン」に居ることを実感した。


ここは、日本とは違う…窓から見えるマドリードの街並みは、日本で見慣れてきた景色よりずっと明るく、くっきりとしていた。


これまで写真で見てきたヨーロッパ風の建物が並んでいる。


本当に、スペインに来てしまったんだ…と豊は改めて思った。


スペイン…学校で習っていたけど、ほんまにあったんや…そんな不思議な気持ちにさえなった。


寂しさは、まるでなかった。


それよりも、これから起こることへの期待が、きれいな色の絡み合った風船ガムのように心の中で膨らんでいた。


ホテルの宿泊には、朝食のサービスもついている。


階下のダイニングへ降りていくと、ビュッフェスタイルの朝食メニューが色鮮やかに列をなして、豊を待っていた。


スライスされた食パン、クロワッサン、ブリオッシュなどの様々なパン、ソーセージ、オムレツ、サラダ、フルーツ…


豊は、自分の皿に山盛り取って来た朝食を、ちょっとしたVIP気分で味わった。


15歳のサッカー少年は、それだけでスペインに歓迎されている気分になった。


 

前夜、豊をホテルまで送ってきてくれた日本人の世話人氏は、その朝も、豊をロビーでむかえてくれた。


豊の最終目的地までは、まだ、ここから飛行機で1時間強 移動しなければならなかったからだ。

 

スペインと聞くと、ラテン系で明るく暖かいイメージがあるが、実際、マドリードは青森市と同じ緯度にある。


マドリードの3月は、思っていたより寒かった。


ピングーとキューピーのチャームが揺れるスーツケースをもって、豊は、世話人氏と再び空港へ向かった。


今度の飛行機は、国内線 ラ・コルーニャ行である。

 

ラ・コルーニャは、スペインの北部、ガリシア州ラ・コルーニャ県の県都であり、大西洋に臨む重要な港町として栄えてきたが、人口は、25万人弱くらいで、豊が暮らしていた当時の明石市とほぼ同じくらいの小さな街だった。


それでも、その歴史は古く、先ローマ時代から人は住んでおり、紀元前62年にシーザーが訪れた際、この地に港を建設したという。


大西洋が囲むなだらかな丘のてっぺんに建てられた灯台ヘラクレスの塔は、現在も利用されているローマ時代の唯一の灯台として有名である。


ラ・コルーニャの空港では、また別の日本人の世話人が迎えに来てくれていた。



 

サッカー留学では、まず審査があって、能力に合うチームに振り分けられ、そのチームに所属するところから始める。


豊は、ここで、地元で数あるサッカーチームのひとつに所属することになった。


そして、世界中からきた外国人たちとの寮生活が始まった。

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