最終章 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記

前話: 第48話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記

最終章 「わたしが伝えたいこと」

「パンセクシャル」(全性愛者)とは「どんな性別でも好きになれる人」のこと。同じ会社のパンセクシャルの女の子から人伝に「アリッサはクールでキュート」って言われたそうです。よかったね、アリッサ。恋愛に発展したら、わたしは祝福できると思う。

 

 

 

家族の形態が変わっていくなか、「わたしたちファミリーは最前線を走ってて、かっこよすぎ。めちゃイケてる」。なんて胸を張れる日が来るといいな。残念だけど、今はまだ無理。隅っこでひっそり暮らしてます。

 

 

今回はわたしたち家族日記の最終章。「わたしが伝えたいこと」。

 

 

家族体験記を書こうと決意したのは、夫であったあの人がカミングアウトしてから約2年後のこと。 「パートナーがトランスジェンダーでも気にしない」と思えるようになっていた頃でした。

 

体験記として文章を綴っていくということは、あの頃の自分に帰るということ。当時の感情に自分をシクロクさせること。

 

晴れて女になって浮かれるアリッサ。ドロドロして、暗くて、みじめで恨みがましい自分。忠実に、正直に毎日体験記を書きながら、あの頃の自分や、アリッサ、そして娘たちを思い出し、大泣きしたり、怒りで胸くそ悪くなったり、自己嫌悪で落ちこんだり、深く反省したり。

 

そして気付きました。強がっていただけ。わたしは心の奥底に感情を押さえ込み、「もうだいじょうぶ」と思い込んでいただけだったのだと。 文章を綴っていくうちに、閉じ込められていた感情がどっと溢れ出し、毎回、華厳の滝のように涙が流れました。

 

「書くことで女は救われる」。昔、女性誌で見たあの見出しはその通りでした。わたしは家族体験記を書くことで救われた。

 

あの時の アリッサの行動、アリッサの気持ち、わたしの誤解や偏見、わたしが取るべきであった行動を見つめ直すことができ、アリッサと向き合い、深く話し合うことができた。

 

今はサウナで汗をかき、垢擦りしてもらい、体内の老廃物をすべて排出し、解毒したあとみたいに、すっきり爽やかな爽快感を感じています。

 

 

わたしたち家族の希少な体験を記録に残す。自分の気持ちを整理する。そして、トランスジェンダーの人たちや当時者に関わるすべての人たちにメッセージを伝える。そんな理由で書きはじめた体験記。書きながら、わたしがしなければならない、もうひとつの大切なことに気付きました。それは、アリッサにわたしの今の気持ちを伝えること。

 

先日こんなことがありました。朝、娘を学校まで車で送った帰り、ブレーキの調子が悪いことに気付きました。ディーラーに修理に持っていくと、「すぐには修理できないので、車は残して、後でまた来てほしい」とのこと。

シャトルで帰宅したものの、車を取りに行くときの足がない。Uberを利用するつもりで、取りあえず、アリッサに報告だけしておこうと思い、テキストしました。すると「Uberなんていらない。ランチタイムだから、今から、帰って、愛をディーラーまで送り届ける」とアリッサ。職場から自宅まで30分かかるのに。

 

アリッサに、夫だったときのあの人を感じて、泣きました。優しくて、強くて、わたしをいつも守ってくれたあの人。

 

イソップ物語の北風と太陽だったら、あの人はいつも太陽。押しつけがましいことは絶対しない。 温かい光で包み込んで、正しい行動を取るように導いてくれる優しい太陽。

 

カミングアウトしてから長い間、わたしは色眼鏡をかけてアリッサを見ていました。被害者の色眼鏡。夫に突然捨てられた女の色眼鏡。トランスジェンダーに対して偏見を持つ人間の色眼鏡。

 

2年半が経ち、思い込みの色眼鏡から解放されて 、やっと気がついた。アリッサの本質は変わっていない。ホルモン治療の影響や、女として堂々と生きていけることの喜びで、確かに浮かれ過ぎていた時期があったけど、今ならわかる。外観はすっかり女になったけど、中身はかわってない。 アリッサはあの人のままで、まだわたしたちのそばにいる。

 

 

 

「受け入れてほしい」。カミングアウトしたとき、当事者が切実に願うこと。アリッサの怯えたような目は、いつでも「認めてほしい、受け入れてほしい」と懇願していたのに、わたしはまるで汚いものを見るような視線を投げ返していた。受け入れることを頑に拒み、周囲に対し羞恥心を抱いていた。

 

だから、わたしはアリッサに謝らなければならない。 言葉にして、手をついて謝らなければなりません。

 

 

ごめんなさい。アリッサ。わたしはあなたにとても酷いことをしてきました。ずっと耐えてきてつらかったと思います。カミングアウトするには凄く勇気がいったと思います。”I am very proud of you. My girls are very proud of you too”. 

 

わたしが抱いていた家族の将来像は壊れて粉々になりました。わたしたちのひびだらけだった夫婦関係も、壊れて粉々になりました。気持ちがよいくらい、完全に壊れてしまったから、今度は一緒に、ゼロから新しいモノを作ればいいよね。

トランスジェンダーでもだいじょうぶ。わたしたち家族はもうだいじょうぶ。

 

 

家族や周囲の人たちへ

わたしのメッセージはとてもシンプルです。自由の国と言われるアメリカでさえ、世の中は偏見に満ちていて、自分らしく生きることはまだまだ難しい。わたしたちができること、しなければならないことは、安心して帰ってくることができる居場所を確保してあげること。彼女たち、彼らは、無知で無関心な人たちからの偏見や憎悪と毎日戦い、時には孤独に震え、ときには怒りや、やるせなさで涙を流しています。トランスという理由だけで、罵声を浴たり、暴力を受けることがあります。 家族や友人、コミュニティーの誰かが、彼らに安心できる居場所を作ってあげないと、 彼らが自ら命を断ってしまうことだってありうる。悲劇は日常的に起っているのです。

 

アリッサがカミングアウトしてまず頭に浮かんだ「離婚」という言葉でした。離婚をしなかった理由のひとつは、わたしが子供たちを連れて出て行ったら、アリッサがダメになってしまうことを無意識に感じていたから。当事者があなたにとって大切な誰かなのであれば、側にいて支えてあげてください。

 

知識は最強の武器であり防具になりえます。トランスジェンダーの人たちや他の家族の体験を知り、自分を教育することがとても大切だと思います。わたし自身は、行動を起こすまで2年もかかってしまい、今、それをとても後悔しています。

トランスジェンダーについて学び、当事者たちの苦悩、かれらを取り巻く人たちの気持ちを知ることで、アリッサに対する感情がまったく変わり、アリッサの立場で物事を考えることができるようになりました。

 

人は未知なもの、接したことのない物事に恐怖を感じる。知識が欠如しているから、怖いと感じ、偏見を持ち、差別をすることで自己防衛するのだと思う。だから、当事者の家族や周りの人間は、無知な人たちに教えてあげなければならない。「LもGもBもTも、みんな普通。わたしたちとなんのかわりもない」と。

 

トランスジェンダーの人たちへ

あなたが、大切な人だからこそ、家族や親しい人たちは傷付き、喪失感を感じ、受け入れることができないのだと思います。周囲が受け入れてくれるまで時間がかかるかもしれないけれど、辛抱強く待ってほしい。(アリッサのメッセージと同じだけど)、自分を愛し、受け入れて、強くなってください。

 

そして、辛抱強く待って、待って、待って、それでも家族や親しい人たちから憎しみを感じ続けるのであれば、そんな彼らのことはほっておいて、新しい自分の人生を生きればよいのかなと思います。

 

 

物事を白と黒とでしか判断できない人は損ですね。あいまいなグレーがあってもよいし、レインボーみたいに、いろんな色があったら、ワクワクする。偏見を捨て、多様性を受け入れ、虹色の美しさ、「違い」をみなが「いいね」と思える 日が少しでも早く来てほしい 。わたしはそう願います。

 

 

 

 

 

トランスジェンダーであることを公表しているティーンエイジャー、ジャズ・ジェニングの体験談。この本を読み、彼女と彼女を取り巻く人たちの生活を映像に納めたリアリティーショー、"I am Jazz"を見て、アリッサのことをもっと理解できるようになりました。メディアで取り上げあげられるとき、ジャズはいつも満面の笑顔を浮かべて、キラキラしているけど、トランスジェンダーのジャズの本当の生活は苦悩に満ちています。家族の強い絆とサポートがジャズを支えています。

 

 

トランスジェンダーについて、子供向けに優しく説明している絵本、"I am Jazz"。前述のジャズ・ジェニングの幼少期の体験をもとに書かれています。アリッサもこの本を読み聞かせ、娘たちにトランスジェンダーについて説明しました。

 

知識は武器。この一冊を読んでから、トランスジェンダーの人たちに対する考え方がすっかり変わりました。

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