アホの力 2-9.アホ、宝物を得る

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震災後の混乱期、南相馬に突然誕生した独立国『みんな共和国』。

誕生したのには理由があった。その頃の子供達の状況は、まさに待った無しの状態だった。

でも、普通こういうイベントを行うには時間がかかる。イベントのコンセプト決めから企画書づくり、賛同者集め、資金集め、会場準備、告知等々やる事は満載だ。それ以前に、メンバーの勉強も重要。でも当時の南相馬には、そうした準備をのんびり行う時間は無かった。目の前に破裂寸前の風船があったようなもので、すぐに行動しなければならなかったのだ。
けど、大抵はこんな状況に直面しても、すぐには取り組めない。色々考えて躊躇してしまうからだ。
そんな時、直情的なアホは便利である。

必要とあらば動く。他に理由はいらない。

そこに向けてすべき事も、余計な事は考えないから、これという事をどんどんやってしまう。
平常時は『もっと考えろ!』と言われてしまいそうなこうした特性も、この時はプラスに作用した。

こうした特性は、イベント開催中も発揮された。
『みんな共和国』のルールはとても単純だ。
“自分の責任で自由に遊ぶ”
これだけ。
このルールには、『怪我と弁当は自分持ち』という事以外にも意味があった。子供の遊びに大人が介入しないという事だ。つまり何も指示しないという事。使うと怪我の可能性がある道具も、使い方の講習をしたのち自由に使えるようにした。他に特別介入しなくても、子供達は独自に約束事を決め、自分たちで遊んでいた。大きい子は小さい子の面倒を見ていたし、会場の掃除や我々の手伝いも、遊びの一環として子供達と一緒に行った。
 

木工の材料にと、竹を用意していた。子供達はその竹を彼らなりに使って遊んでいたが、それを見た私はある日、竹を使って竹とんぼを作って見せた。それも別に『竹とんぼ作り教室を開くぞ』と声をかけたわけじゃない。子供達が遊んでる中に入って、むちゃくちゃよく飛ぶ竹とんぼを一人で勝手に作って、一人で飛ばして遊んでいたのだ。そうするとそれを見た子が『何それ!俺も欲しい!俺にも作って!』と言ってくる。そこで私はこういった。『何で作ってやらなきゃなんねえんだ。作り方教えてやっから、自分で作ってみな。』と。
そうして子供と一緒に竹とんぼをつくってると、それを見た子がさらに集まってくる。そうして竹とんぼ作りの輪は勝手に広がっていく。声掛けしなくても、勝手に『竹とんぼ作り教室』が出来上がっていた。そして、子供同士で作り方を教え合っている。何人かの子は、家に持って帰ってまで竹とんぼを作っていた。

我々の子供との関わり方は、いつもこんな感じだった。
いつしか我々の後にいつも子供がついて回るようになり、一緒になって『遊んで』いた。

アホな私に子供達を『指導』する事は出来ない。
そもそもそんなガラじゃない。
我々自身も子供がそのままデカくなったようなモンなので、どう接すればお互いに心地いいかを、感じるがままに行動しただけだ。
そのせいで『周りの大人』には『あんたたちはまったく!』と随分怒られたが(笑)、それで良いと思う。

最終日、子供達に感想を紙に書いてもらった。そこには

『最高でした』

『めっちゃ楽しかった』

『ストレス発散!』

『ずっとやって欲しい』
等の言葉が並んでた。
最高だったのは、私達も同じだった。本当に最高にオモロくて、毎日が夢のように感じられたっけ。
私にとって、宝物となる日々だった。

これ…このまま終わらすわけにはいかんでしょ。
さて…次だ。

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アホの力 3-1.アホ、道に出会う

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