アホの力 4-3.アホ、自暴自棄になる
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アホの力 4-4.アホ、泣く
入院3日目。
何のために入院してるのか分からない。
病気を治すためなのか、自殺しないように見張るためなのか。脳梗塞の急性期の治療は、実はそれほどする事が無い。点滴以外は、熱や血圧などを測るバイタルチェックくらいだ。
相変わらず絶望は続いている。希望など持てない。この状況で一体どうしたら、希望なんて持てるというんだ?
思考が重い。『死にたい』という事以外の事が考えられない。
誰とも話をしたくない。何より、家族の不安そうな顔を見るのが苦しかった。頼むからもう一人にしてくれ。
死なせてくれ。
そんなこの日、リハビリが始まった。
始めは病室のベッドの上で脚の曲げ伸ばしから。リハビリをしないと、拘縮(関節などが固まって動かなくなる事)がますます進んでしまうという。
リハビリ?何のためにそんな事するんだ?
拘縮が進もうがどうだろうが、どうでも良いよそんな事。どうせ回復しないんだろ。奇跡頼みなんだろ。
どうでも良いから、早く楽にしてくれ。
そんな私をしり目に、理学療法士の先生は一所懸命脚の拘縮を防ぐ施術を施してくれる。
しかもこの先生、やけに明るい。
何でこの人は、こんな私の施術を明るく出来るんだろう?不思議だった。
ふと気になったのだが、何故か先生はずっと目を閉じていた。
何でこの人は、目を閉じて施術してるんだろう。
だが、その理由を聞く事はしなかった。
死んで楽になる事以外に興味が無かったからだ。
リハビリは1時間くらい行われただろうか。施術を終えた先生は、病室を出て行くのだが、そこで『あれっ?』と思った。
先生は目をつぶったまま歩いて帰っていったのだ。
そこで初めて気付く。『この人は視覚外障害者だ』という事に
ますます分からなくなっていく。
『視覚に障害を抱えながら、何故こんな死にかけに明るくリハビリを施せるんだろう?』
自暴自棄の中に、ほんの小さな気持ちの揺らぎが生じた。
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