アホの力 4-2.アホ、絶望する
前話:
アホの力 4-1.アホ、恐怖する
2013年1月2日の朝、私は目覚めた。
目覚めた目線の先に見えたのは、見慣れた実家の自分の部屋のそれとは明らかに違う、見た事の無い天井だった。
もちろん大学病院のICUの天井である。
それを見た時、昨日の出来事が一気に現実となって目の前に落ちてきたのだ。
『あぁ…夢じゃ無かったんだ』
と。
それと同時にこんな感情も湧いてきた。
『あぁ…死に損ねてしまった』
夢であってほしかった出来事が今、自分の身に起こっている。
私の身体の右半分は、脚を僅かに動かす事しか出来ない。そんな現実に改めて直面し、湧いてきた素直な感情が『死に損ねてしまった』だったのだ。
昨夜あれほど『目をつむるのが怖い』と怯えていたのに、翌日目が覚めたら『目覚めなければ良かったのに』と思っているのだ。
そのままずっと思い続けた。
『死んでしまいたい』
と。
死んでしまいたいが、半身不随のこの身体では、自死する事すら出来ない。
このままずっと屍のように生き続けるしかないのか…と、ひたすら絶望するしかなかった。
その日一日は、正直何をしていたかよく覚えていない。
ただひたすら『死にたい』とばかり思っていた。
起き上がる事が出来ない…?もしかしたら、意識はあるのに身体は一生動かないのか?
そんなのは生き地獄だ。生きる屍も同然じゃないか。
そんな状態で生きていたくない。頼むから誰か殺してくれ。
そんな気持ちでいるところに、見舞いに来た家族がこんな事を言った。
『希望を持って頑張りましょう。』
だが、そう言った本人が、全く希望を感じていない表情でそう発言したのだ。
その発言を聴いて、私はこう思った。
『気休めを言うな』
『頑張るって何を?』
『希望って何だ?どうしたらこの状況で希望が持てるって言うんだ?』
『あとはもう奇跡頼みなのか』
そう発言をした家族ももちろんつらかったのだろう。でも、その発言は私を、夢も希望も無いどん底に叩き落としたのだった。
本当につらかった。
外界とのつながりを、全て起たれてしまったような気がしていた。その頃には多少言葉を取り戻していたが、何か言葉を発したところで、側に誰かが寄り添ってくれている訳ではない。この時の私は、ただただひたすら孤独に死を願うばかりの存在だった。
著者の戸田 光司さんに人生相談を申込む
著者の戸田 光司さんにメッセージを送る
メッセージを送る
著者の方だけが読めます