偏差値40の浪人生が、半年で20万人以上を追い抜いて第一志望の国立大学に合格した話

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このストーリーは、ある少女が絶望的な状況からも、必死に努力して第一志望の大学に合格したお話です。

 

私は指導者として、彼女のストーリーに直接関わることができました。この話を通して、諦めないことの大切さ、自分を信じチャレンジし続けることの大切さが、一人でも多くの方に伝われば幸いです。

 

 

 

私がアイちゃん(仮名)と最初に出会ったのは、夏真っ盛りの7月、北海道の小さな町に学習塾を構えてから、数日しないうちの出来事でした。

 

とりあえず最初の印象としては、おどおどしている、引っ込み思案、インドア派(オタクっぽい?)、人なつっこそう(犬っぽい?)、といった感じ。

 

最初お母さんとどの椅子に座るかを譲り合って、10秒以上も目の前の椅子に座れなかったほどの優柔不断。話をしていくと、口数も少なくこちらの目を見ることもせず、18歳にしては幼いな、というのが正直な感想。3人兄弟の末っ子で、家族の中でも甘えん坊ポジションの様子。

 

 

しかしこの子は間違いなく優しい子で、きっと一生懸命で誠実な子なんだろうな、とも感じました。自己主張は強くなくとも、誰かを助けるためなら尋常でない力を発揮できる、そんなタイプなんだろうなとも感じました。

 

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今回はとあるイベントを通して知り合った方から、「娘が浪人生で英語がずっと伸びない、なんとかしてほしい」という依頼を受け、実際にお会いして面談をすることに。

 

よほど事情が切羽詰まっているのだろうと思い、お会いしていろいろお話を聞いていきました。アイちゃんの第一志望は、北海道で随一の国立・帯広畜産大学。しかしアイちゃんは英語を大の苦手としており、過去の模試の結果を見ると、センター模試で英語の点数が200点中60点前後、偏差値でいうと40以下という状態でした。

 

センター試験の英語はほぼ全てが4択の問題なので、何も考えずに答案を書いても多少運が良ければ200点中70点くらい取れてしまいます。点数だけで言えば、アルファベットが分からない人とほぼ同レベル。高校に3年間通っていて、卒業後もしっかり予備校に通っていて、それでもずっと点数が伸び悩んでしまっている状態。

 

そして追い打ちをかけるかのように、帯広畜産大学はこの年から、二次試験で英語の選択が必須となってしまいました。去年までは二次試験で英語を選択しなくてもよく、現役のときは英語を避けて通ってしまっていたようなのです。センター試験も含めると、今から何が何でも英語を伸ばしていかなければならない状況でした。

 

ちなみに帯広畜産大学のセンター試験のボーダーは65%、今の倍の点数を取らないと合格できないレベルです。残された時間は、ちょうどあと6か月。普通に考えれば、絶望的な状況かもしれません。

 

しかしそんなアイちゃんに、私はこんな提案をします。

 

「これから英語を得意教科にして、英語を安定した得点源にしていきましょう。二次試験では、英語を2問解けるくらいになりましょう!」

 

あっけにとられる母娘。半ば呆れ顔のお母さん。そして戸惑いつつも、なぜか前向きになってくれたアイちゃん。とにもかくにも、こうして私たちの半年に渡るチャレンジが始まったのです。

 

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帯広畜産大学の二次試験は国公立大学の中でも少し特殊で、120分で合計5問を解く「総合問題」の形式です。予め5教科に2問ずつの計10問が用意されており、その中から自由に5問を選んで時間内に解ききる、という形式です。

 

そしてこの形式がゆえに、前年までは苦手な英語から逃げて受験することが可能でした。選択する5問を、「数学・数学・生物・生物・化学」というように、理系教科だけにすることができたからです。ところがこの年から大学の募集要項が変わり、英語を最低1問は解くことが必須となってしまいました。英語が苦手なアイちゃんにとっては、一見絶望的な状況です。

 

しかし私は、これがまだ絶望的な状況ではないと分かっていました。その日アイちゃんに受けてもらった簡易テストで、アイちゃんは中学レベルの単語・文法知識にほぼ問題が無いと分かったからです。

 

私が過去指導した生徒の中には、半年で英語の偏差値が10近く伸びた生徒は何人もいます。アイちゃんの現状はかなり厳しいですが、ここから英語を得意教科にまで引き上げることは決して無理ではないと、過去の経験から確信できたのです。

 

とにもかくにも、私たちはその後、オンラインでのマンツーマンの授業をしていくことに決めました。決して安くはない授業料をいただきながら、私はプロとして、しっかりご期待に沿っていこうと固く決心したのです。

 

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アイちゃん母娘にお会いして数日後。

 

私はお母さんに頼んで、アイちゃんの過去の模試結果など、あるだけのデータを郵送で送っていただきました。

 

模試の結果はお会いしたその日にもざっと見ていましたが、念のため現役だったころのデータや他教科の伸び具合なども入念にチェックしておきたかったのです。

 

そしてレターパックで届いた資料の束を見ながら、私はある事実を目の当たりにしてしまいました。

 

それは、「英語が伸びない」ではなく、「英語以外も伸びていない」という事実でした。

 

英語以外の教科も、偏差値はおおむね4045といったところ。数学・国語・生物でたまに偏差値60を超えたことがあるものの、いずれの教科も得点がかなり不安定。毎回模試で、偏差値40を切る教科が英語のほかに2つほど。浪人が始まってから全くと言っていいほど各教科の点数の伸びが無く、「得意教科」と言えるものが全く無い状態でした。

 

現役生ならまだしも、浪人生がここから半年で全教科で偏差値10伸ばすのは、はっきり言って絶望的です。英語だけならまだしも、全教科となると話は全く違ってきます。はっきり言って、国公立大学を目指せるレベルではありません。

 

これまで何度も何度も模試を受けて、そのたびに毎回E判定(合格率20%以下)で、それでも頑張っているけど、ずっと点数が伸びない。難しい問題ばかりに取り組んで、答えや解説を見ても理解ができず、それでも頑張っているけど、ずっと点数が伸びない。そんなアイちゃんを想像すると、私は彼女が健気で可哀そうになってきました。

 

そして私は、一つの結論を下しました。

 

「帯広畜産大受験を、諦めさせよう」

 

苦渋の決断でした。特に「英語を得意教科にしよう!」と意気込んで希望を与えたうえで、それを早速取り消さなければならないのは心がとても痛みます。しかし模試の結果だけでなく、アイちゃんの性格やこれまでの経緯、通っている予備校の形態(朝から夜遅くまで授業に缶詰め)、すべてを総合的に考えて、こう結論づけるしかなかったのです。

 

私は今回の話が全て白紙になるのも覚悟のうえ、お母さんにメッセージを送りました。

 

「模試の結果、じっくりと分析させていただきました。結論から言いますと、私からは志望校の変更をお勧めさせていただきます。」

 

そして受験教科数が少ない私立大学の受験に絞ることなどを提案。するとお母さんからはこんなメッセージが(以下、原文ママ)。

 

「ありがとうございます。先生、丁寧に見ていただいたのですね。

英語は目立ってましたが他にもありますよね。私たち親は国立にこだわっている訳ではなく、現役のとき○○大学(滑り止めの私立大学)の申し込み要項を取り寄せ、申し込むよう伝えました。てっきり申し込んでいるかと思ったら、無断で申し込まず浪人しようとしていた節があります。(中略)二浪はさせないので私立は次回必ず受けてもらいます。高校の担任の先生も国立に受かったら奇跡と思っていると思います。兄たちを見ていても、大学受験というのはそんな甘いものではありません。娘は試験に対しての食らいつき方が違うし、甘いなと感じます。」

 

その後お母さんとは幾度かやり取りを重ね、まずは私からアイちゃんにヒアリングをしていくことにしました。なぜ帯広畜産大にそこまでこだわるのか、大学で何を学びたいのか、将来どんな仕事をしたいのかなど、アイちゃんの本心を理解する必要があったのです。

 

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そして8月上旬、アイちゃんとの初授業を行いました。アイちゃんの本心を探るため、私はいろいろな質問をしていきました。

 

まず帯広畜産大学を第一志望とした経緯について。高校のころは生物が比較的得意で、帯広畜産大学になんとなくあこがれは抱いていた様子。そして周りの人から良い大学だと聞く機会があり、そこに行きたいという気持ちが強くなったとのこと。

 

次に将来については、動物に関わる仕事に就きたいというところから、「捨てられた動物をどうにか助けたい」という思いが一番強いということが分かりました。しかし具体的にどんな仕事に就きたいかというと、全く具体的な答えがない状態でした。自分の将来について真剣に考えを深めていない、言ってしまえば幼さゆえに、世の中の現実を直視しようとしていない姿勢が窺えました。

 

しかしそれでも、帯広畜産大学に対しては強烈な思い入れを持っているということだけは分かりました。理屈抜きで、とにかく何が何でもそこに行きたいという執念だけは、アイちゃんは初めから誰よりも強かったのです。

 

切り口を変えて、私はアイちゃんに現実的な話をしていきます。

 

私:「今のままだと、帯広畜産大に今年合格するのは何%だと思う?」

アイちゃん:「・・・60%くらい?」(いやいや、主観的成功確率が高すぎ・・・!!)

 

私:「帯広畜産大に合格するのに、センター試験で目標とする点数はどれくらいだろう?」

アイちゃん:「64%がボーダー。英語は5割くらい」

(うん、まず自分の受験大学のボーダーは最低限知っているようだ。よかったよかった。

でもアイちゃん、君は一つ大きな勘違いをしているよ。)

 

私:「ボーダーっていうのは合格すれすれの点数のことで、目標は確実にそれより上に設定するものなんだよ。例えば帯広畜産大だと全教科の合計目標が7割で、それだと英語は少なくとも6割はほしいよね・・・。」

アイちゃん:「・・・。」

 

私:「アイちゃんの今の偏差値が(高く見積もって)大体45だよね。センター試験7割って大体偏差値55だから、あと半年で10上げる計算になるよね。そうすると、3カ月でいくつ偏差値を上げる計算になるだろう?」

アイちゃん:「5」

 

私:「そうだよね、じゃあアイちゃん、この前の3カ月振り返ってごらん。偏差値はいくつ上がったかな?」

アイちゃん:「あんまり上がってない・・・」(実際はむしろ下がってる)

 

私:「偏差値を5上げるって、どれだけ大変かイメージできるかな?」

アイちゃん:「いや、あんまり・・・」

 

私:「偏差値45っていうのは下から30%の順位で、偏差値50がちょうど中間なんだよね。受験生は50万人以上いるから、偏差値を5上げるっていうのは受験生10万人以上を追い抜く計算になるんだけど・・・。これ、3カ月でできると思う?」

 

アイちゃん:「いや、難しいと思います・・・」

私:「そうだよね、ちょっと現実的じゃないよね」

 

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