ハロー!クロスアセクシャルマンの愉快日記5~恋愛すっ飛ばしたキスから学んだこと~

前話: ハロー!クロスアセクシャルマンの愉快日記3~お待ちかね絶望編1~

ハロー!ジェンダーアセクシャルマンkeisukeです。こんな時間にこんばんは。今日は、日付的には一応昨日の夜にあったこと・・つまり、本の数時間前に僕が体験して思ったことを少し書こうと思う。

 何をしたかって、つまりはファーストキスだ。相手の性別は男。そこで僕の確信犯的な自暴自棄の結果と、ついでに感情に起こった悲喜劇について、語らせてほしい。最初に言うが、これは笑い話だ。
 端的に言うと、僕はまた例の如くの定期的な鬱にのしかかられていた。まぁ、前にどーんと来たのが10月だったから、およそ2か月スパンで来ていることを考えると妥当な時期ではあろう。いや、大体の周期まで分かってんだけどね、それでも恒例のコレを対処しきれず、僕は苛立ちと激しい憂鬱に溺れかけていたのである。だからかな、ただ、何となく人恋しくて、けれど友人たちは軒並みバイトで不在で・・・そんな中、ふとマッチングアプリというものの存在を思いついた。誰か、適当に都心で待ち合わせして夕飯付き合ってくれる人いないかな。誰かと喋って美味しいものを食べれば、この苛立ちも解消されるんじゃないか・・・。
 そうと決まれば、鬱状態で理性が死んでいる僕の行動は変に速かった。原動力は「おなかが空いた」という最強の生存本能だ。・・というのも、昼過ぎに起きてそのまま寝なおしたせいで、午後4時の段階で僕はおなかがぺこぺこだったのである。とにかく、美味しいものが食べたい。それだけの理由で、適当に写真を撮って、アカウントを作ればあら簡単。今どきの写真アプリって綺麗に撮れるんだなーなんてことを思っていたら、すぐに100件を超える男性の視線が僕に集まった。そんなことがまた、僕の自暴自棄を加速させていったのだけれど。
 そのアプリにはタイミングや場所、目的を指定して今すぐ会える相手を探す、という機能があった。そこに投稿してから10分。10件を超えるオファーがすぐに集まった。年齢、場所、ある程度様々。慎重に考えるふりをして取捨選択の判断を弄び続けるうち、本当におなかが空いてどうしようもなくなったので、いい加減真面目に考えることにした。
 この時点で、僕の頭は九割五分程度が男の子。はは、チョロいもんだな、などと相手を騙すネカマのような気分でメッセージを見ていき、結果一番具体的に誘いの内容が書いてあった年上の男性Aにコンタクトを返した。上っつっても20代。とりあえず僕としては誰でもいいから話をしながらご飯を食べたかっただけなのだが・・まぁ、相手が「22歳女子大生」ともなれば、当然そうもいかないなんてこと、僕もよく分かっていたのだ。
 それをよく知っていながら、僕はわざわざメイクアップし、馬鹿じゃねぇの、と自嘲しながらボルドーのスカートを履いた―――大方そうすれば僕は自分が「綺麗だ」と言われることくらいは知っていたのである。何度でも言おう、僕はこの瞬間大変自暴自棄になっていた。いや、どうにでもなれ、とかそういうんじゃなくてね。自分の性別を握りつぶして、あえて性自認を踏みにじるようなやり方で頭の中を傷つけて遊んでいた。そうして身支度を整えて電車に乗り込んだ僕は、大層無表情で"綺麗な女の子"に仕上がっていたのである。自分が男の子であると理解したうえで、したくも無い女の子の恰好をする。もはや精神的な自傷はとどまるところを知らず、どこまでも僕の外面は女の子らしい態度や仕草を取ろうとしていた。
 いざ。意外と簡単に待ち合わせは成功し、綺麗な女の子になった僕は、女の子の皮をかぶって男性Aについていった。別に危ない地区でもない、居酒屋の多い飲み屋街の一角の個室式居酒屋で。料理はおいしかった。お通しからしてとにかくおいしくて、酒も入ってたし、会話内容も普通。多分この人は僕のプロフィールをきちんと読んで、”そういう目的”で来た訳じゃなさそうだ、と僕の外面はニコニコしながらご飯を食べていた。けれど、そうやってニコニコしていたのはあくまでも外面であり、内側ではっきりと僕は、その男性Aと僕の外面を、きっちりと罵っていたのである。
 ある程度心理学をかじり、カウンセリング時のヒアリング方法やデートの時の女の子の喜ばせ方なども身に着けて来た身からすれば、一連の食事中にAのとっている行動などあからさまに「女の子に親近感を持たせる方法」をマニュアル通りになぞっているとすぐに見抜くことができた。例えば、ドリンクは僕が注文したものと同じお酒を頼むとか。率先して料理をよそうとか。僕の知識を引き出して僕にいっぱい喋らせるような誘導を掛けているとか。ハハ、見抜けないとでも思ってたのかよ。そんなの、「僕だって全部昔から女の子と”遊ぶ”ときにやって来た事だっつうの」ってさ。・・あまりに分かりやすくて、しかも僕の外面(=「わたし」とでもしておこうか)の女の子的対応に気をよくして明らかに「ワンチャンイケる」みたいなことを考えているであろうことだって見え見えだったし。だが、外面の「わたし」が女の子のようにすればするほど中身の僕は自分に嫌悪してはそれを喜んでいたから(要は自傷的な感覚の加速だ)、僕は敢えてやめようとも終わろうとも思いもしなかった。もう最悪の確信犯だ。そんなの僕だって分かってた。けれど、・・・ひとかけらの理性が一応の予防線の為にと、会計の時に飲食代合計5000円強のうち2000円を支払うように言った。電子マネーでスマート装おうったってそうはいかねぇと、僕の中の防衛者が相手に無理やり札を握らせたのだ。
 そして誘われた2件目。アイス食べ放題だから、と連れていかれたのはネットカフェだった。そう、もう気付いてたんだ。プライベートルーム、なんていう名称の小部屋を指定するAより前に。それでも僕は、・・あくまでも「わたし」ではなく「僕」は、別にどうってことないさ、と冷静だった。だって僕は男の子、こんな下心くらい見抜いてやり返せずどうするのだと。徐々に、精神的な自虐行為は終わりに近づいていた。「わたし」は影を潜め、女の子のふりをした僕が表に立ち。そう、やり返せ。もう二度と会うことのない相手なのだから、何をどうしたって自由だろう。相手の自尊心を食い散らしてやるつもりで、僕はAに連れられて個室に入った。
 そこで、案の定キスをされた。彼氏や彼女はいたが恋愛経験はゼロである僕からしたら、人生初のキスである。知らない会ったばかりの男性から・・流石に、何かしらの感情が自分に出ると踏んで、僕はその感情を導火線に男の自尊心を”倫理的に正しく”始末してやる気満々でいたのだが・・
 無。
 いや、なんかさ。人間としてもうちょっと何かあると思うじゃん。多少はドキドキするとか、もしくは正反対に「気持ち悪い!!!!」みたいなさ。この頃には、もう僕も外面を取り繕うことも忘れてほぼほぼ僕のままその男に接していたのだが、自分の負の感情ごと利用して相手を追い詰めようとしていた分、かなり、これには衝撃を受けた。
 だって、無。
・・・いや、何て言うんだ、犬に顔舐め回された時の方がまだ「やめろうおおお」って気にもなったというか、かといって歓迎もしてないし、まさかの、そこはかとない無が、僕を襲った。
 Aの方は思った通り大層「ネカフェに酔った女の子連れ込んでイケナイことしようとしてる俺」に盛り上がっていたようなのだが、その「ここまでくれば流せるっしょ・・俺最強じゃん」みたいな思考さえ全部透けて見えていて、もうとんでもない無が僕の中に吹き荒れた。やべぇ、何だこれ。冷静に考えれば、好みでもない同性からキスされているのと同義である。まぁ、他人にも自分の体にも興味が無い僕がそんなことに何の感情も抱けないのも当たり前っちゃ当たり前なのだが・・。とにかく、その無に一発殴られた気分で、僕はその後男Aのスキンシップに怒ることもなくオール無で過ごし、ただ黒執事の最新刊を読めた事に満足して、終電の時間を迎えた。序盤の凶暴なまでの破壊欲は完全に消え失せ・・・今度代わりに出てきたのは、これまたはたから見れば随分であろう奇妙な欲だったのである。
 その欲は簡単に満たすことができるものであった。会計の際、個室にAがスマートフォンを忘れたと取りに戻ったので、僕はその間に二名1時間半分の利用料金をまとめて払うだけでよかったのだ。金銭を犠牲に満たされる、いとも簡単なシャーデンフロイデ。僕が感じていたのは、かつて女の子をエスコートしてデートの真似事のようなことを繰り返していた時にも秘かに感じていたものと同じ、「奢ることによる相手への絶対的な優越感」だった。
 そう、完全に僕はその時「男の子」であり、”僕はAを”「”僕”の外面にハマってホイホイついてきた阿呆な女の子」と同じようなものとみなしていたのである。出口への階段を上がる際、いくら、払うよ、と後ろから焦ってついてきていたAに対して僕は、確かに優越感を感じていた。はは、個室に連れ込めばどうとでもできると思っていた”たかが学生の””年下の女の子”からスマートに会計を済まされて、先に階段を上がられて「足元気を付けて」なんて言われる気分はどうだい?僕はね、大層愉快で面白かったよ。

 終電よりひとつ前の電車に乗ったら、混み過ぎていて誰かの肘が僕のみぞおちに見事にフィットしている。そんな、揺れても転びようも無いほどの人口密度の電車に揺られ、全部終わった後僕はただ考えていた。確かに年上の会社員相手に札束で頬を叩いてやるような真似をして気分は晴れたけれど、・・僕、少なくとも男の人には恋愛感情どころか性的な何かすら感じないらしい。それが、僕の脳内がその時完全男の子だったせいなのか、それとも元々僕自身の女の子の部分でさえ女の子相手にしか性的なアレコレを感じないのか、はたまた僕は実は大変な嫌悪感を抱いていて、必殺技である「解離性健忘」を久々に発動していたから覚えていないだけなのか、その時にはもうさっぱり分からなくなっていた。しかし、ただ一つ言えることは、色々結果オーライであったとはいえ、「男性とのキス」の結果僕に生まれたのは単なる無であったということ。これは別次元の問題として、僕の頭に残った。
 ふと、以前、ある程度僕の頭の構造に自力でたどり着いたらしい友人が、こんなことを言っていたのを思い出した。
「お前、レズなのかホモなのかどっちなんだ(笑)」
 確かに、何なんだろうね。僕って。思うがままの服を着るどころか、恋愛すら多分無理なんだなぁ、って。何となく自分は男女両方に性愛を感じることができないんじゃないかとは思っていたが、とりあえず身体的には大多数であろう「相手が男性だった場合」の可能性は少なくとも、今回の一件で潰えてしまったのである。
 こうして、僕のファーストキスは、ただ一つ自分の性別どころか性指向すら訳が分からないカオスであるという事を証明し、ついでに変なシャーデンフロイデで気晴らしをするきっかけを作っただけで終わってしまったのである。もう、このマッチングアプリも用済みだなと、午前7時過ぎ、スマートフォンの画面から僕は一つ、薄っぺらで残念な人間のつながりを消した。
 7時間後にはまたアルバイトだ。僕の人間関係なんて、店長とか副店長の使い走りをする程度の範囲で十分。せめて寝不足を少しでも解消できるよう、これから寝ることにします。
 以上、僕の笑い話でした。ちゃんちゃん。

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