②−①旅行に行ってから別れるまでー8年間付き合った同性のフィリピン人の彼氏に浮気されましたー
1月末、彼が僕より数日先にニュージーランドに戻った。
久しぶりに一人になる。
肩の荷が下りた、そんな気になる。
二人でいることがあんなに幸せだったのに、いまはストレスと感じているんだな、とその時思う。
彼の浮気はまだきっと継続中で、僕の気持ちはまだ折り合いがつかない。
答えはまだ出さなくてもいい。
そう自分に決めたけど、それでも毎日吐きそうになった。
友人に旅行の写真を送ったら楽しくなさそうだね、と言われた。そうかな。そんなつもりじゃないんだけど。楽しくなさそうな人と一緒にいて楽しませられるはずないのに、何してるんだろう、なんて1人で考える。
彼は僕に気持ちがあるのかはわからないけど、彼がニュージーランドに戻る前日、家のローン(共同名義)の契約書に二人でサインをした。
こういうので一喜一憂した。
彼の中に僕の存在があってまだやり直せるんじゃないのか、未練がましいのだけれど、そういう気持ち。子はかすがいじゃないけど、家がそんな役目を果たしてくれるんじゃないかなって。
それからの数日間、僕は1人で日本にいた。
その数日間の一人になれる時間は大きかった。
彼が飛行機に乗る前、愛されていないにも関わらず、距離を取るのが怖かった。
彼の気持ちが自分から離れるんじゃないか、
彼があいつと楽しんでいるんじゃないか、こっちがこうやって悶々としている中、あっちは今を好きな人と楽しんでいるんじゃないか
ただ、実際のところ、この4日間は彼が、じゃなくて自分がどうしたいか、をすごくよく考えられる日々だった。
すごく気持ちは楽になった。
僕が彼のことを好きとか嫌いとかそういうことじゃなくて、頭の中が少しだけすっきりしたような。
4日間の間、大学の友人たちやTInderでマッチしていいなと思った人、二丁目のゲイバー、占い師、多くの人にあった。
その人たちと会う間に、僕はやっぱり決して幸せじゃないんだなと強く実感した。
そして、2月4日、僕もニュージーランドに帰った。
彼との生活がまた始まった。
やり直すためか、それとも、ただのカウントダウンになるのか、当時はまだわからなかったけど。
僕らはまた、一緒に暮らし始めた。
僕が帰ってきた初日、彼は夜、早速出かけた。
友人の家に行ってくるとだけ残して夜出かけた。
次の日の昼の12時まで帰ってこなかった。
数ヶ月前だったら、もやもやして苦しかったこの瞬間も、僕は何も感じなかった。
心が麻痺したのか。それとも、気持ちが残ってないのか。
麻痺した体に熱湯をかけても何も感じなくても、
火傷はする。心もきっと同じだ。
無痛になる。
最後の防衛手段なのか。
ただ、いざ麻痺が解けたときに、
その傷と歩いていけるのか。反動が怖かったりした。
それとも、
僕自身に気持ちがないのか。
気持ちがないのは、少しやっぱり寂しくて。
8年愛した人への気持ちがなくなるのは、やっぱり胸が痛い。
浮気されても、馬鹿にされても、なんにしても、やっぱり苦しい。
自分の気持ちがわからなかったけど、彼が帰ってこなかった夜、自分の中で、もうこれで終わりなんだな、と思えたのだ。
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