【7】痛みと温度が同居した日 ~ホンモノの女優 桃井かおりとの出逢い~
わたしが幼少の頃から見ていた映画は洋画ばかりでした。
日本の女優さんといえば
トレンディドラマで見る顔ぶれ以外の人たちは ほとんど知りませんでした。
桃井かおりさんを知ったのも この映画を通してです。
無知。
これほど強いモノは無いのかもしれません。
ただ
桃井さんは その無知を決して認めることはありませんでした。
新人だろうと 素人あがりだろうと 関係なかった。
桃井さんにとっては 同じ土俵にあがったら、やれ。
選択肢は できるかできないか、やるかやらないかではなく
やれ、の一つしかないのです。
わたしは それでも無知だった。
彼女はわたしを追い込んだし、そして排除しようともした。
わたしができないのなら、役を降りて帰る、と目の前でいわれ
泣けないのなら、と頬を叩かれもした。
それとは別に
役柄上、スタッフもそして監督も 役者さんたちも私から距離を置きました。
わたしと誰かが仲良くしている姿を見ると
きっと誰かがそれを監督に伝えたのかもしれません。
その翌日からは 決して声をかけてはくれなかった。
孤独にする為に。わたしをとことん、追い込むために。
わたしは小学生の時に愛してほしいが故に 実の父を殺したいとまで思った子です。
そんな追い込みは もはやわたしには子供だましにさえ思えました。
でも 桃井さんの追い込みだけは きつかった。
映画を愛すが故、女優としての誇りを誰よりも強く持つが故
心底 15歳のわたしは惚れたのです。
叩かれても泣けなかったのに
部屋に帰り ひとりになると 勝手に涙があふれてきました。
18年間、女優をしてきていますが
彼女ほどの女優魂を超える人をみたことはありません。
処女作で 女優 桃井かおりに出逢えた奇跡に感謝しています。
今は亡き 原田芳雄さんは 主人公・静子の実父役として
ほんの数日間、現場にいらっしゃいました。
原田さんにご挨拶に行くと 原田さんは新人のわたしにも
深く頭をさげました。
そしてひとこと、こう言いました。
「がんばってください」と。
いつも 闘っているようにみえた桃井さんが
原田さんを見つけた瞬間、満面の笑みでかけより
少女の様な顔に変わった瞬間を わたしだけは見逃さなかった。
その かけよる風の中に 確かに香りがありました。
花に例えるなら それは
わたしは 生まれてはじめて 同性に嫉妬した。
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