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13/7/1

【8】痛みと温度が同居した日 ~本当の孤独は現場をはなれた後にやってきた~

Image by Olia Gozha

クランクインからクランクアップまで

向けられたカメラが捉えたのは 素のわたしだったのか

それとも演じた静子という少女だったのか わからない。


わたしはセリフを棒読みだったし 

演じることが何なのかよく分かっていなかった。


でも それでも監督が最後の最後までわたしに言ったのは

キモチだった。

芝居はしなくていいし 棒読みでもいいから

静子のキモチだけを感じてくれたら それでいい、と。


それだけは守ろうとしたし むしろ それしかできなかった。





役者とスタッフは プレハブ小屋で生活をしていました。

映画の為に 空き地にそれは設置され

食堂もあって 全員がそこで同じ釜のお米をいただいたのです。


距離が近かった。


わたしは大人の世界のいろいろを ひと月半で経験した。

美しさのかげに潜む もろさも 素晴らしさの奥にある泥臭さも。

職人たちがどれほどの どれほどの道を歩んできたのか・・・・・。

ほんの些細なことに拘り 喧嘩する姿も見たし

お酒を飲んで暴れる姿も見た。

わたしが太らないようにと ご飯を少なくよそう 悲しい手も。


食堂でもわたしはひとりでした。


そこまでするのは可哀想だという声も聴こえた。


わたしを避ける大人たちの中に

今すぐにでも抱きしめたいと思う人たちのキモチが伝わって

それが とてもイヤだった・・・・。

それほど 残酷なことはない・・・・。


泣くわけにも 弱音を吐くわけにもいかず、わたしは ただ 笑った。


今だから言えることだけれど

わたしも そして静子も決して強かったわけではない。


弱さを隠すのに必死だった。

今すぐにでも抱きしめてほしいと こころは叫んでいたけど

それをしてはいけない、とどこかで知っていたのです。


大人はずるいと思った。

わたしの前で弱さをさらけ出し そして涙を見せたから。

でも わたし以上に孤独だったのは 監督だったろうと今はっきりと分かる。



映画のクランクアップの日のことは記憶の中にはない。

泣いたのか笑ったのか、もしくは ほっとしたのか。


ただひとつだけ覚えているのは

桃井さんがわたしのところに来て、

「お疲れさま」と言って わたしを抱きしめたのです。


その時に 何か張りつめていたモノがプツンときれてしまったことだけは覚えている。


でも その後は記憶から消えています。




そして長崎は佐世保から 横浜の自宅に戻りました。

わたしはこの時、すでに見える世界が違っていました。


良かったのか悪かったのか、

学校生活が今まで以上に退屈に感じられてしまったのです。


留年しない程度に 単位ギリギリまでわたしは学校をさぼりました。


そして やっぱり映画館へ ひとり足を運んだのです。



帰って来て わかりました。


わたしは孤独では無かったのだと。

現場ではいつも 愛されていたのだと。


ほんとうの孤独は 日常に戻った途端にやってきました。


わたしにとっては人生が一変する出来事で

そして かけがえのない作品であり 愛してやまない世界だったとしても


現場で関わった全ての人にとっては 

何作品もの中の1作品に過ぎなかったということ。


奇跡の様な時間は・・・・

わたしにとって生きた心地しかない現場は

はじまったら 終わるのだというコト。


この事実を目の当たりにしたときに 

いつもの貸切 映画館の中で はじめて声を殺して泣きました。


それは偶然にも ナタリーポートマンがチャップリンを演じた瞬間だった。

神様は粋な計らいをする。


はじめて観た チャップリンの映画までの記憶が走馬灯のように蘇りました。



愛されていないと感じた幼少期があったおかげ様で

ブラウン管の向こう側に見た 新しい世界。

そして 女優になると決意したあの日。

高鳴る鼓動を抑えきれずに 本屋に駆け出した瞬間。



何もかもが

なにひとつ 無駄はなかったし

なにひとつ 間違っていなかった。


でも この時ばかりは 思いっきり泣かせてほしいと思った。


痛みは 温かな感謝でいっぱいにあふれたのです。



これが わたしの人生で一度目の 痛みと温度が同居した日。




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