【フランスの森の中⑩】上裸でドレッドな妻子持ちヒッピーと、廃バスの中で成立した英国人カップルたちと、テントの中で「人間失格」を読みふける僕(19)と、時々犬連れてるおっさん。

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"Qui ne sont plus humain" dans une forêt

だんだん、作業には慣れてきたのだけれど、みんなが何言っているかわからないし、自分の言いたいことが伝わらない日々。多分1週間経った頃だったと思う。ちょい鬱に突入した…。当時、(今もなのかわからないが)森の中に当然Wifiの環境などなく、ネット社会とはオサラバ状態。誰かに話すとか電話するということができなかったし、SNS(当時はFacebookやMixiなど)も見たり更新したりすることができなかった。
だからこそ、せっかく日本社会と断ち切ることができる機会なのだから、と頑張るが、やはり厳しいものはある。作業自体はそれなりにしんどいし、休憩中もやることがなくなってくる。犬とか子供と遊ぶくらい。そう、自分は犬とか子供と同じくらいのレベルなのだ。社会的弱者、といった状況を久しぶりに味わった気がしていた。ヒッピーな一家だったし、イギリス人の二人もリベラルなので、全くアジア人差別とかはなかったし、フランス語できなくて当たり前、むしろちょっとわかるだけすごいみたいな扱いをしてくれる優しい人たちなのだが、やはりコミュニケーションがうまく取れないことが辛く感じてしまう。
そんな中、はまったのは、なぜか「人間失格」…(笑)。ついにタイトルの僕の内容。実は、本当になぜかわからないが、飛行機とかでめちゃくちゃ暇になったときに備え、いくつか電子書籍を入れたりしていた。(当時最先端のipodtouch。懐かしい…)その中で、プロのナレーターが名作本を読み上げてくれるオーディオブックがあって、そこで「人間失格」をダウンロードしていたのだ。当時、僕は本でも読んだことがなくって、なんとなく太宰の名作。ということしか知らなかった。そもそも太宰も「走れメロス」以外知らない。そんな人間失格童貞の僕が、夜な夜な、ひとりテントの中で「人間失格」を聞きながら寝るというホラーに近い現象にはまった(笑)
もしかしたら知らない人もいるかもしれないが、「人間失格」はタイトルの通り、人間失格レベルのダメ男の話。(本当はもっと色々な捉え方・読み込み方があります。あくまで19歳の田舎少年が読んだときの感想です)しかもプロのナレーターの方がセリフを上手に演じ分け、地の文もいい具合の恐ろしさで語ってくれる。BGMも絶妙なおどろおどろしさだ。これをフランスの奥深い森の中、真っ暗なテントの中で、一人流しながら聞くというやばさMAXの状況が、ある意味僕を救った。単純に、「こいつダメな奴だな、僕の方がマシだ、でもなんでこいつモテるねん、むかつくわ」、というありがちな感想が自分自身を勇気づけたこともあるし、「このクオリティの高いオーディオブックをこんな変な場所で聞いているシュールな人間は僕一人だ」という自己肯定感があった。

なんの役にも立たないし、実力もない僕、という意識を少し勇気づけてくれたのが、「人間失格」なのだ。この名作とこんな出会い方をしたやつは本当に僕だけだと思う(笑)。2日ほどかけて夜な夜な人間失格を読みふけり、どうにか「整える力」を身に着けた僕だった。

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