【第六話】挑戦には怒りがともなう

前話: 【第五話】第三者の意見ほど耳を傾けよ
次話: 【第七話】奇跡の予感

私は確かに、医師やカウンセラーなどの専門家がスマホ依存をテーマに書いている本のページをめくった。

しかし、いくら本を読み進めてもどうにもこうにもストンと胸に落ちる話や、ぜひこの情報を広めたい!という思いにならず、以前のように筆が進まない。

なぜだろう…。

やはり私が活字アレルギーだからだろうか?

本に書かれている内容はというと、想像していたよりもずっと優しく説明されており、依存症に対して全くの素人の私でも書いてある内容はしっかり理解できる。

ただ、なぜか私の心が動かないのだ。

手に取る本を間違えたのだろうか?

このまま私はこれまでと同じように、この執筆活動を中途半端な状態で放り出してやめてしまうのだろうか?

そんな不安な思いが胸の中をぐるぐるとしながら、時間だけが過ぎていった。

最後に執筆した日からちょうど1週間が過ぎた頃、私は以前から予約していた行政が運営する相談サービスを訪れていた。

起業に関する相談に無料で乗ってもらえるサービスで、月に一度私が住む長崎県大村市で出張相談会が行われる。

先月が初めての相談で、今日で2回目だ。

私は相談員の女性と男性に、

今スマホ依存脱却に向けた物語を執筆してnoteやFacebookで発信する挑戦をしていること、

もし、実際に克服できたら、そのストーリーを書籍化して同じ悩みを抱える人の役に立ちたいことなどを話していた。

相談が始まって30分ほどたった頃だろうか。

どうも相談員の女性の様子がおかしい。

先程から何度も何度も同じ話を私に繰り返し、突然声が大きくなったり小さくなったりする。

よくよくその女性を観察していると、私が話し手のときには、どんどんまぶたが下がってくる。

そして私の話が途切れたタイミングではっと目を開け、もう3回は聞いたぞと思う話をまた繰り返す。

そう、どう見ても寝ているのだ。

本人は必死で眠気を隠してまぶたを持ち上げようとしているのだが、もう隠せる睡魔の域を超えているのだろう。

寝ている人にいくら真面目に相談しても何の意味もないので、私は男性の相談員の方に視線を合わせて相談を続けた。

すると、なんということだろう。

今度は、その男性の相談員もまぶたを閉じて寝だしてしまった!

昼食後の人間が最も眠くなる時間に相談の予約を入れた私にも落ち度はあるだろう。

しかし、個人事業主として開業したばかりで右も左もわからない中、大きな不安を抱えた私にとって、その状況はとても悲しいものだった。

悲しいどころか、怒りの感情さえ湧いてきた。

このまま相談を続けると怒りをぶつけてしまいそうだったので、

「今日はもういいです」

と立ちあがり帰ろうとした。

すると、男性の相談員が慌てて立ち上がり、

「事故だけはないように」

とこれまでの相談と何一つ関係のないアドバイスをしてくれたので、

「ありがとうございます」

と頭を下げその場を去った。

「そちらも居眠り運転にはお気をつけください。おやすみなさい」

と嫌味のひとつでも言ってやろうかとも思ったが、もういい年した大人なのでやめた。

ただ、この怒りを押さえ込んだまま家に帰って夫や子供に当たり散らすことだけはしたくなかった。

「どうやってこの怒りをコントロールしようか…」

私は考えていた。

そして1週間以上握れていなかったペンを手に取り、手持ちのノートに今の感情を、自分さえ読めないような汚い字で書き殴った。

なんの誇れるスキルもない、有名大学を出たわけでもない、それどころか失敗続きの私のような人間が「いつか本を出版したい」など夢物語をつらつらと語っても、それはそれは聞き手にとっては退屈なことだっただろう。

相談員の少し小馬鹿にしたような表情が今も頭から離れない。

これまでの私だったら、こんなことがあったとき、

「もうやーめた。どうせ私なんかにこんな挑戦最初から無理だったのよ」

となっていただろう。

しかし、今の私は

「なにくそ!負けてたまるか!真剣に相談している人間の前で平気でスヤスヤと眠るこんな人間たちよりもずっとずっと大きくなってやる!」

と逆に火がついている。

怒りのエネルギーは時に想像を超える力を発揮する。

この日から数日たちすっかり冷静さを取り戻した私は、なんであんなに怒っていたんだろう?と少し笑えてくると同時に、私に「怒り」と言う感情を与えてくれた相談員の2人に感謝さえできるようになっていた。

もしただ愛想よくうなずいてくれただけの相談だったら、この第六話が執筆されることは一生無かったかもしれない。

誰もしていないことに挑戦するということは、必ずその挑戦を引き止めようとしてくるものがいる。

バカにしてくるものがいる。

そこには少なからず怒りがともなう。

そしてある者は、その怒りに潰され挑戦を止める。

その一方である者は、その怒りをエネルギーへと変えて、より大きな挑戦へと一歩を踏み出す。

私は今回の出来事で、後者に少しだけ近づけたような気がした。

インターネットの世界で自分の人生を文字にして発信するという事は、現実世界ですらうまくいったためしがない私にとっては、正直足が震えるほどの挑戦なのだ。

この先にどんな未来が待っているのか、自分でさえも全く想像できない。

ただひとつ確実に言える事は、どんな結末が待っていようとも、勇気を出して新しいことに挑戦したという経験は、決して無駄になる事はないということだろう。

とりあえず今私がすべき事は、スマホ依存脱却に向けてできることから少しずつしていくこと。

そんな当たり前のことに気づき納得するまでに、人の何倍もの時間をかけながら、一つ一つの出来事を乗り越えていく。

そんな不器用すぎる人間が、私たち発達障害者なのかもしれない。

そんなことを感じた日だった。

翌日私は、こんな私でも読める簡単な本はないのだろうかと、

「スマホ依存 漫画」で検索をした。

すると、驚きの1冊がヒットした。

ーつづくー

続きのストーリーはこちら!

【第七話】奇跡の予感

著者の奈月 茂さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。