【第十話】音楽塾ヴォイスの存在を知った日

前話: 【第九話】奇跡が起きた日

先生から返ってきた言葉。それは、

「アウェイ感でしょう」

というものだった。

「…それだ。」

確かにたくさんの人は自分の目の前にいて自分の歌を聞いてくれている。

しかし、この人たちがここにいる目的は、決して私ではないということだけは確かだった。

名前も顔も知らない奴が急に出てきて、子どもたちのステージの前に何か歌っている。

きっとほとんどの人からは、そのくらいにしか思われていないんだろうなぁと肌で感じた。

きっとこの感覚は、ステージに立ち始めたばかりの人たちの多くが感じる感情だろう。

私は悔しかった。

そう思われたことが悔しかったのではなく、せっかくこんなに複雑な感情を実際に自分の身体で体験することができたというのに、今の私にはそれを使って音楽の作品を創りあげる技術がなかった。

音楽について真剣に学びたい。

自分の身体で感じたものを作品として産み出せる人間になりたい。

前々からぼんやりと思っていたことが、より一層強い確信へと変わった瞬間だった。

そうと決まればあとは行動を起こすだけだ。

尊敬するアーティストは誰がいるかなぁと考えたとき、「絢香」の名前が頭に浮かんだ。

彼女はどうやってあんなに凄い技術を身に付けたのだろうか?

気になったので私は調べてみた。

するとすぐに「音楽塾ヴォイス」の名前がヒットした。

福岡校と東京校があるが、どうも福岡校が本校のようだ。

「福岡なら、私の住む長崎から車で2時間ほどか。行けるな」

彼女が学んだときにはまだ福岡校しかなく、大阪から新幹線で片道4時間かけて毎週その音楽塾に通ってたというから驚いた。

そのホームページをクリックすると
「2020年度4期生受付開始!」の文字があった。

締め切りは四日後。

音楽はカラオケでもいいらしい。

写真とエントリーシートが準備できれば応募自体は誰でもできるようだ。

「いける」

そう思った私は、「シンガーソングライターコース」に応募しようとしたら、なんと応募条件に「30歳まで」の文字があった。

確かに、若くてとびきり可愛い子たちがたくさんいる中で「31歳、既婚、子持ち、音楽ほぼ初心者」という条件はかなり厳しいものがあるよな…と自分でも思った。

「なんだー年齢でだめかぁー」とがっかりしていたら、よくよく条件を見てみると、

 「福岡校のみ、年齢制限なしのコースを新設しました。(オンラインのみ) 」
 
の文字を見つけた。

「お、これならいける!」と思い、次の日私は早速電気屋さんでスマホスタンドを購入し、カラオケに行って自分の歌声を録音した。

しかし何度録っても納得のいくものがなかなか録れない。

まず自分の声がとても小さい。

しかし、マイクの音量を上げると音が割れてしまう。

いろいろ試行錯誤した結果、iPhone付属のマイク付きイヤフォンをつけて、エコーを絞ったマイクで歌った声を録音するのが一番マシかなぁという感じだった。

「おっ今回はいい調子!」と思っていたら、着信が入ったり、カラオケからコールが鳴ったりして、結局四時間ぶっ続けで歌いまくり、帰る頃にはどっと疲れていた。

家に帰って自分の歌声を聞き直して一番良いものを選ぼうとするも、なんだかしっくりこないものばかりだった。

最後になんとなく違う人の歌でも歌っとこうかなぁと軽い気持ちで歌ったKiroroの「好きな人」という曲がなんだか一番良いような気がするのでそれにしよう。

よし、音楽はOK。

問題はエントリーシートだ。 

どんなふうに書けば熱意が伝わるのだろうか?

私のことを一番知ってもらえる文章はなんだろうか?

そう考えたときに、私は今まさに書いているこの自伝を読んでもらうのが最も早いのではないだろうかと思った。

私はファミレスにこもり、音楽に関する書き溜めていた自分の想いを一気にノートに書き起こした。

書き始めたら筆が止まらなくなり、私の音楽への想いは20ページを超えていた。

長い…長すぎるぞ。

こんなに長い文章を送りつけて

「他人の時間を無駄にするやつ」

という印象を持たれてしまわないだろうか?

私は自分が書いた文章を読み直し、削れる箇所を探した。

でも、一文字一文字が大切で、消せる文字なんてなかった。

とりあえずこれまでブログで連載していたように、キリのいいところまでで一話一話を切り取り、音楽塾ヴォイスについて書いてある話をエントリーシートに記入して、後はブログのリンクを貼っておくことにした。

もしこんな私に興味を持ってくださったのならば、これまでのストーリーをリンクからとんで読んでくださるかもしれない。

逆に「こんな人間はいらない」と思われたならば、あっさりと落とされることだろう。

絶対にひとつ言える事は、今私が勇気を出してこのオーディションに応募しなければ、ヴォイスに入塾できる可能性は間違いなく0%だと言うことだ。

私は「面接をさせてもらえますように」と願いを込めて、締め切り最終日の23時55分、応募メールを送った。

メールの最後に

「どうか私にこの物語の続きを書かせてください」

と追記して。

ーつづくー

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