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摩訶不思議な演歌の世界

45年も生きていると、子どもの頃、不思議で仕方なかったことがだんだんわかるようになってくることがある。
そのひとつが、演歌の世界。
いや、おっさんになって演歌の素晴らしさ、奥深さ、味わいを感じられるようになったということではない。
わかるようになってきた、というのは「演歌ではなぜ男性が女性の視点で、恋心を切々と歌い上げるのか?」ということ。
子どもの頃、テレビから流れてくるいろんな演歌では、暑苦しいおっさんが、未練やら、添い遂げられぬ辛さなどの女心を熱唱してて、なんでおっさんが女心を全力で表現しているのか、不思議でしょうがなった。
おっさんが、おっさんの視点で、想い人に対する未練やら恋心を歌い上げるならまだしも、なぜか演歌のおっさんは歌う時に視点を転換させ、歌が始まる前にはアナウンサーも、「次は○○さんが、抑えきれない湧き上がる「女の情念」の深さを歌います。」とか言ってる。
いやいや、ちょっと待て、あんた、女じゃないでしょ、おっさんでしょ。
って、子ども心にも不思議で仕方なかった。とっても不思議なので、父にも、母にも聞いたのだけど、納得できる答えは得られない。特に父なんかは、「お前みたいなガキにこの歌の世界がわかってたまるか」みたいな、斜め45度の返答。大人はいつだって、微妙にずれたタマを打ち返してくる。
この疑問はなかなか解けなくて、あるとき、演歌歌手っていうのは自分で作詞作曲する人は少なくて、多くの場合は作曲家、作詞家が作った歌を歌っていることを知る。そして、作曲家、作詞家のほとんどが男性であることも同時に知ってさらに驚いた。
そうなると、女性の演歌歌手が歌っている「女心」も実は、男性によって作られたもの、ということなり、余計に謎は深まっていった。
これはどういうことか?
世界的に、日本の演歌のように女性の視点による「女心」を男性が作詞作曲し、男性が切々と歌い上げるなんていう音楽ジャンルがあるんだろうか?もし誰か知ってたら教えてほしい。
でも、今は何となくわかる。きっと、この演歌が切々と歌い上げる「女心」は男性が男性のために作ったファンタジーの世界なんだろう。そこに、当事者としての女性の視点は、おそらく、どこにもない。
だから、別れても好きだったり、着てはもらえぬセーターを寒さ堪えて編んでたりするんだよな。どんなにつれなくしても、ひどい目に遭わせても一途に自分を想い続けてくれる人がいる、という大変身勝手なファンタジーの世界。誤解を恐れずに言えば、これこそが消費を目的とした精神的ポルノグラフティの世界。
だから、演歌の世界は徹底的に男性にとって都合のよい情愛世界を歌い上げる。さらにそういう都合のよい曲を男性が作り、女性歌手に歌わせるというあくどいことまでする。
これが、「女心」を男性歌手が歌い上げる演歌の世界の正体なのではないかと思う。そして、たぶん、多くの人が直観的に感じる演歌の古臭さ、ぬるっとした気持ち悪さの源泉はこんなところにあるのではないかと思う。
俺の思う、「いい女」はこうだ、これが「女心」だ。当事者不在で構築された意味の束をこれでもかこれでもかと叩きつけ、歌い上げ、同じような人たちの共感をお金に換えてこの世界はできているんじゃないかな、と思う。でも、そういう世界もだんだんしぼんでいってるってことも確かだろう。
でも、こういう意味の束っていうのは、演歌の世界だけじゃなくて、多文化共生や日本語教育の世界だって、当事者不在の中で、ある一方が意味の束を勝手に構築して叩きつけていることだってある。これ以外にも、あらゆる局面で、これはこういうものだ、こうあるべきだという意味の束の厚さ、執拗さがこの社会の活力を奪っているのかもしれない。
とまあ、なぜか今日は演歌を徹底的に糾弾してしまったが、でも、こういう見立ては全くの見当違いとも思えない。
こんな傾向は、当時のフォークソングにも若干当てはまるような気がするけど、伊勢正三が作詞作曲した「なごり雪」は、男性の視点からの別れの曲だけど、女性であるイルカがカバーして大ヒットした。これは確かにいい曲。
こっちは、視点の転換もなく、別れの寂しさをストレートに表現したものだけど、女性が歌うとなぜかよい。後年、徳永英明もカバーしてるけど、やはり女性がカバーしたもののほうが心に響く。
これは、なぜか?ということについて、また機会があれば。

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