ヘタレ貧乏、起業する 第5話:オファー。

前編: ヘタレ貧乏、起業する 第4話:束縛契約書
後編: ヘタレ貧乏、起業する 第6話:寝耳に水。
馬にニンジン。

一生食べられないニンジンを見て走り続ける馬を見て
「動物は馬鹿だなぁ」と一度くらいは思うだろう。
でも、人間も大して変わらない。

ヘタレ貧乏、起業する 第5話:オファー。

晴れて音楽プロダクションと契約した僕らは、事務所で言われた言葉をかみ締めていた。
「ウチにかかればプロになるのなんて簡単だ。○○も○○も知り合いだよ」という社長。
夢を持った人間は食い物にされるとどこかで聞いていたことがあるが、人は自分の目の前にニンジンをぶら下げられるとあれほど疑う心を忘れてしまうものなのだろうか?こうして今思い出すと呆れるほどあさはかである。
「正直者は馬鹿を見る」とも言うが、本当に馬鹿を見るのはこうした純粋さなのかもしれない。僕はこの当時確実に正直者ではなかった。ただただ、夢に純粋だった。混じりっ気なし、ピュア、バージン、こんな言葉がついたモノに高値がつくのも頷ける。
世の中のウラを知らない、まだスレていない人間ほど食いやすく、美味しいのだ。僕らは自分の夢が徐々に浸食されていることにも気づかず、その夢を大きく膨らませ続けた。路上からライブハウス、都内にも活動の幅を広げ、徐々にファンも増えていった。
気づけば毎回30~40人のお客さんが集まるようになった。その当時の柏では一番人気があったと思う。有頂天という言葉がぴったりな心理状況になったところで、事務所から次のオファーが来た。
「そろそろインディーズでCDを出してみないか?今のお前達なら売れるぞ。」
勘違いも極限に達すると冷静になる。僕らはそれを当たり前のように受け止めた。しかしその後に続く言葉に驚愕する。

「レコーディング費用、CDのデザイン、プレス費用は出してもらうからね」
・・・え?それってただの自費出版じゃん。後で気づいたことだが、まだお金のない弱小プロダクションはこういう形態にしているところも多いみたい。今にして思えば実力のなかった自分たちにとっては当然とも言える。まぁまぁ、言っていることは解らないくもない。約10万円ほどの費用を僕たちは頑張って捻出することにした。
アルバイトをして作ったなけなしの10万円を支払い、レコーディングを済ませ、初のCDを発売した。とは言ってもどこのショップに置かれる訳でもなく、すべてライブと路上での手売りだ。
1000枚の在庫を抱えた僕たちはお金を回収したいのでそれはもう必死に、今まで以上に頑張った。しかし、どこの世界にも必ず「壁」というものが存在する。どれだけ精力的に活動しても、毎週来るお客さんは40人を超えることはなかった。
それでも気合いと根性で在庫をほぼ無くした頃、事務所から次のオファーだ。
「よし、次は2枚目のCDを出そう。こうした小さな積み重ねがプロへの道だ!」
うむうむ、ごもっともだ。やってやるさ!もうヤケクソで2枚目のCD製作に取り掛かった。ただ、無知な若造も良いことばかり言われてたらいつかは気づくもの。2枚目のリリース後、同じ事務所にいた周りの仲間たちが次々と辞めていく。
その理由を聞いていく内に、僕たちは絶望と失望を味わうことになる。
つづく。

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ヘタレ貧乏、起業する 第6話:寝耳に水。

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