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13/9/6

ヘタレ貧乏、起業する 第6話:寝耳に水。

Image by Olia Gozha

僕らは簡単に人を信じる。

そして簡単に人を疑う。

しかし多くの人は、自分を信じない。

そして疑うこともしない。

最大の問題は、信じ方も疑い方も知らないことなんだ。

ヘタレ貧乏、起業する 第6話:寝耳に水。


「俺は辞めるぞ」「俺たちも辞めるよ」

そんなことを聞いていて、最初は諦めてしまうような根性なし共なんだろうと思っていた。しかし気づけば、事務所に所属している半数以上が同じことを言い出した。さすがに気になった僕らは彼らにその事情を聞いてみることにした。すると皆口を揃えて同じような理由で辞めるのだという。

「あの事務所、俺たちを売る気なんて全然ないよ。」

「CD持って営業にまわってるなんてウソ。やっているのは本当に実力のある一部だけ。」

「売れそうなヤツ以外はCDどんどん作らせて、マージン抜いて稼いでるんだよ。」

「それであいつらは儲かるから、俺たちが売れても売れなくてもどうでもいい訳。」

「それなら完全に自分達でやった方がお金も残るしいいじゃん」

これらの話しには経営者になった今だから理解できる点もあれば、やはり強引だと感じる点もある。多分、小さいところはどこもそんなもんだろう。

それを知らない僕が無知だったと言わざるを得ない。ただ少なくとも、この頃の僕たちには寝耳に水な内容だった。こうした商売のやり方も、世間を知らない僕たちからすれば詐欺同然に感じてしまうのだ。とはいえ、たとえ本物の詐欺だったとしても上記のような文句を垂れていた奴らも、そして当時の僕らも、こんな幼い価値観・思考だったからこそダメダメなままだったんだけどね。他人のせいにして、他人任せにしようとしていたこと自体が終わってるなぁ、と今では思う。

事実、僕らを含めて文句を言ってやめた人たちはもれなく100%その後もしょぼいままだ。僕はたまたま自分を変化した後にビジネスの世界に入ってそれなりの結果は出せるようになったけれど。

この頃にはすでに事務所に入って2年が経とうとしていた。

思い描いていた夢も大分色あせてしまいつつあった状態で、大人の世界の厳しさを垣間見たのだから、精神的にもかなり疲労が溜まっていた。そして僕らもその流れに乗るようにして、事務所を抜ける意思を伝えた。

だがしかし、甘かった。事務所から来た返答はこうだ。

「今までの恩を忘れたのか?そういう筋を通さないヤツは業界干すからね」

「俺らはそういう力持ってんだ」

「契約書ちゃんと読んだでしょ?そういう理由じゃ辞められないんだよ」

「辞められるのは、解散した時だけだ」

契約書を読み返してみると、確かに「5年契約」と書いてある。その間は、契約したグループである以上、どんな理由であれ辞められないらしい。まともに内容を読ませもしないでサインさせたのだから、ここまで来るとさすがに悪徳である。これもまた、そんなもんなのかもしれないが。

しかも、辞めない限り自分たちの好きな場所でライブ活動を行うことも、勝手にCDを作ることも、すべてを事務所に報告、監視のもと行わなければならない。僕らは何も知らずに「束縛契約」をしていたことになる。

こういうこともある世界だと聞いてはいたが、まさか自分たちがその状況に立たされるとは思いもしなかった。

「このままじゃあと3年もこいつらの金のために働かされることになる・・・」

しかし若い僕らにはその圧力に抗う言葉も、知識も、勇気も持ち合わせていなかった。

仕方なく5年継続することにし、その間どうにか耐え抜こう。

そうクニと話しあったのだが・・・

つづく

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