ヘタレ貧乏、起業する 第7話:解散。
「頭が真っ白になる」
僕はそれまで、そんな状態を経験したことがなかった。
人が絶望するのは夢を諦める時じゃない。
それが唐突に消えてしまった時だ。
ヘタレ貧乏、起業する 第7話:解散。
事務所との契約も形上続行することになり、なんとかバレないよう独自の活動もしていこう。その内また明るい未来が開けてくるだろう。僕はそう考えるようにして無理矢理自分を納得させていた。その後もしばらく路上やライブハウス出演などを続けていたが、やはり望ましい結果は出なかった。
この時に自分の未熟さに気づいていれば、また道は違ったかもしれない。段々路上に行くのも億劫になり、クニとも口喧嘩が増えていった。それでも僕にとって初めて見つけた夢であり、中卒という最終学歴から考えても音楽以外の道を考えることはできず、できるだけ楽しく活動するよう努めた。
しかし残念ながら、楽しくする工夫なら良かったのかもしれないが、「楽しくやろう、やらなければ」というある種の義務感でやっていたため、考えれば考えるほど初期の楽しさを感じることはできなくなっていった。
夢は不思議だ。経験すればするほど、色んなことを知れば知るほど、遠くなる。これは実際には遠ざかっているのではなくて、正確な距離が見えるようになってくるのだ。
確かこの頃、一億円の宝くじが当たってタンスの中に隠して眠りに就く、という夢を見た。
あまりにも鮮明に記憶にあったため、朝目覚めた時もそれが夢だったと気づかずに意気揚々とタンスを開け、人生でも5本の指に入るほどのショックを受けたのを覚えている。つまり夢が現実に近づくほど、自分の力の無さも、その難しさにも気づいてしまうんだ。
自分がプロになれるなんて、ありえないことにも。
でも今なら言える。それを知ってからが始まりだと。
それから目標を叶えるために直結した行動をすれば、どんなことも実現できると。
でも当時の僕らはそれを受け止めることができなかった。そして僕の夢は終わりを迎えることになる。いつもの土曜、定期路上ライブの日。
相方のクニから唐突に「解散しよう」と言われた。
つづく
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