ヘタレ貧乏、起業する 第8話:夢の終わり。

前話: ヘタレ貧乏、起業する 第7話:解散。
次話: ヘタレ貧乏、起業する 第9話:店長。
弱い人間とはどういう人を指すんだろう。
戦おうとしない人?
現実から逃げてばかりの人?
きっと一番弱い人間は、
弱い人を認められない人だ。

ヘタレ貧乏、起業する 第8話:夢の終わり。

その言葉を聞いた時、「言ったな!女の子にもフラれたことないのに!!」なんて冗談を言う余裕はなかった。僕は一瞬頭が真っ白になった後、自分の耳を疑った。なんせ、それまでクニはそんな雰囲気をまったく漂わせてなかったからだ。

結城
は?ウソでしょ?

僕はそう言った。

クニ
スマン、ウソじゃないんだ。ずっと考えていたんだが、もう決めたから。

まるでワガママ女が散々男を振り回した挙句フラれる時の決まり文句みたいだ。
しばらく説得したが、冷静になって話しを聞いてみると、もう音楽がつまらないと言う。
頑張った先になにがあるのかわからなくなった、と。
そこまで言われてしまったら引き止めることなど無理だと思った。今思えば、この時点ですんなりその決断を認めてあげるべきだったと後悔している。ここまで自分の考えをまとめてわかりやすく伝えてくれた人に対して、僕がその場で出した答えは「とりあえず事務所に相談してみよう」だった。
あれだけ辞めたがっていた事務所に、もしかしたら相方を説得してくれるかも、と期待してしまったのだ。そのせいでいたずらにクニが悩み苦しむ時間を増やしてしまった。
僕は本当にカスだった。
結局事務所に行ってもクニの気持ちは揺らがず、解散という形で契約も終了した。形上解散ライブをしなければということで、2003年の6月末、お世話になっていたライブハウスと柏駅前でCLASSMATEとして最後の路上ライブを行った。
200人以上のお客さんが集まってくれ、駅前に人だかりができた。
でもこの日のことはあまり覚えていない。ただ最後はガムシャラに、楽しくやろうとしか思ってなかった。その日まで毎日気が気じゃなかったから、そういう意味ではスッキリしたのだが、その日からの僕は完全に意識を持たない人形のようになっていった。
僕の「夢」はクニと二人でプロになることであり、ほぼクニの才能に寄りかかっていたため、一人で人前に立って演奏する勇気も、歌う勇気も出なかった。
事実上僕の夢は終わったのだ。
それから約半年、僕は音楽を始める前と同じ、カラッポの人間になっていった。
つづく。

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ヘタレ貧乏、起業する 第9話:店長。

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