続 不足の事態
前話:
不足の事態
私の切り落とした右脚はどれほどの重さがあっただろう?両腕と両脚の合計が残りの頭と胴体の合計と同じだそうだ。よって私の右脚は少しは残っているが8kgはあっただろう。今年の夏はやたら暑く、余り動かなかった。どうも肥ったようで体重を計ったら、58kgだった。おや、意外と増えていない、否減っている?と思ったのは浅はかだった。無くした脚を忘れていた。プラス8kg、つまり66kg!ヤバアイ!どおりで義足が脚に食い込むはずだ。暑くなると若干太くなると聞いていてそのせいだとばかり思っていた。アイタタタ。
手術直後の体重測定では68kgで、「全然やせてない!」と叫んだら、若く美しい看護師さんに、車椅子18.5kgプラスして、と言われてしまった。そりゃあそうだろう。鏡の中のしわくちゃの顔を見ればわかることだ。全くひどく痩せたものだ。
脚が軽くなると、想定外な事が起こる。脚の残っている太もも部分が浮き上がり右前に軽く蹴り出した格好になる。このまま放っておくと脚は固まって、左脚に添わずに、右前に出てしまう。この部分に義足のソケットと呼ばれる物(鉛筆のキャップのような形の物)をはめなくてはならないので、義足はひざで自然に折れ曲がり、カタカナの「イ」の形になって、役に立たない。
手術直後に始まったリハビリでも、この蹴り出し阻止に力点がおかれ、ほぼ毎日来る若い目力バッチリの浜崎あゆみ似のリハビリ師さんは右脚を思いっきり後ろに引き上げ、痛めつけて、悦にいる。そう感じるのは患者で、リハビリ師さんは必死だ。義足が使えない状態になれば、何のために脚を切ったか意味がなくなってしまう。今回の手術の生命線をにぎっている。
寝ている時も意識して、脚を上げないように、左脚に添わすよう。これでは眠れないじゃぁないか!いや、贅沢は言っていられない。義足が使えない状態は絶対に避けぬばならぬ。必死で言いつけを守ろうとするのだが、眠り始めるやいなや、ふと手が横から伸びて来て、右脚を開かせる。マグネットが反発し合う時、抑えても、ふわふわする、あの感じで、脚が浮遊する。リニア脚になったようだ。
「 時々うっぷして寝てもらうのも、いいですよ」 「わかりました!」と答えたものの、この寝かたはくるしい。ただ、なんだかハリウッドスターにでもなったような気分には浸れるかもしれない。
ともかくするうちに、脚は何とか希望どおりの形に固まって、やれやれだ。傷口も、順調にくっ付き、助かった。糖尿病者は傷口が治りにくい。切断部が治らなければ、義足は装着不可能なわけで、最も主治医の先生が心配して下さっていた事だった。
OK,OK.これで義足へ突進だ!
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