2万4千年の恐怖と、45億年の悲しみ その2 〜愛とはなんの関係も無い。

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2万4千年の恐怖と、45億年の悲しみ その2 〜愛とはなんの関係も無い。


金曜日深夜。 

僕とTは中野駅の南口で待ち合わせた。 
今夜も三鷹台のラーメン屋で働いてきたTは店が忙しかったらしく、少し遅れてきた。 
商売繁盛なら結構なことだ。 

被災地に行って、一体どんなことをするのか訊いてみた。 
どうやら都内ラーメン屋さんには横の繋がりがあり、 有志で順番に炊き出しのボランティアを行っているということだった。 
Tのところに話が来たのも当日、つまり今日だったらしい。 

ボランティアを行うという申告をすれば、無料でレンタカーを貸してくれる業者があり、また、自治体に申請すれば、高速料金も免除されるそうだ。 
つまり、身体ひとつあれば、ほとんど金銭的な負担は無く、ボランティアに参加できるというわけだ。 
中野駅南口のラーメン屋さんの前で、他の面々とも合流した。 

メンバーにはラーメン店の経営者も居たし、アルバイトも居た。 
元ラーメン屋で今は別の仕事をしている人も居た。 
完全なる門外漢は僕だけだったようだ。 
役に立てるのかどうか不安もあった。しかし、有り難いことにそれは杞憂だった。 車を運転出来るのが僕を含めて3人しか居なかったのだ。 
交代交代で運転しようと決め、車2台で出発した。 

車内では当然、ラーメンの話になる。 
駅前のラーメン屋の家賃がいくらで、客層がどうだとか、 新しく出来たラーメン屋に行列が出来ていたが味はどうだとか、 メンマの単価、チャーシュー作りの工程の話、券売機のボタン配置のアイディアや、 クレーマーや面白いお客さんのエピソードなどなどなど。 
僕の知らない専門用語が飛び交う、エキサイティングな車内だった。 

午前4時頃、佐野SAでもう1台と合流。そこからは僕が運転した。 

中でも面白いと思ったのは、「カチョー」の話だ。 
ラーメン屋にとって、化学調味料の話題は避けては通れないものらしい。 
「○○のラーメンなんて、カチョーだらけじゃねぇか」なんて馬鹿にしていたかと思えば、 実際に何百種類もある化学調味料に精通している人に対しては尊敬の念を禁じえない。 
軽蔑しながら尊敬する、というその心理が実に不思議なものだと思った。 カラマーゾフの兄弟で、長男ドミートリィがカテーリナを侮辱しながら愛していたことを想起した。

後でTに聞いたところ、 
「ラーメン屋とカチョーの関係は、ロックミュージシャンとドラッグの関係と同じだ」 
と言っていた。なるほど、確かにな。 

Tは、吐き捨てるように言った。 
「料理は人を幸せにするためのものなのに、カチョーで人を騙して裏でほくそ笑んでるなんて、本末転倒だ。愛とはなんの関係も無い」 

Tは「カチョーを使うな」と言いたかった訳ではない。
「カチョーを使って客を騙して喜んでるのが馬鹿みたい」ということだ。
実際お客さんが幸せになるのなら、彼はカチョーだって、ドラッグだって使うだろう。

僕はアクセルを踏み、掴んだ奥の景色をどんどん後方へと投げていった。 
Tの言葉は、「料理」を「原発」に、「カチョー」を「情報隠蔽」に置き換えられるな、と思っていた。

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