目の前で1,500人がいっせいに引くと「音がする」んだという事実を知った日

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僕が社会人になって初めて入った会社は、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった人材紹介会社だった。人材紹介とは、よく電車のドアにステッカーが貼ってある、転職したい時に相談するあれらの会社のことだ。


その会社は、リーマンショックが起きるまで、その3ヶ月前に僕が辞めるまで、過去最高の売上を更新し続けていた。恐らくこの業界が最も勢いがあっただろう、ミニバブルで丸の内周辺が浮かれていた、そんな2006年4月の話―。


全社総会での新入社員挨拶


その年、僕の同期は280人いた。設立10数年の新興企業がベンチャーから大企業へ脱皮しようと画策している最中で、その年の社員総会は、ホテルのホールを貸し切って、全国から1500名の社員が集められていた。
新入社員は、研修を切り上げ、その日は社員全員の前で挨拶をするのが恒例となっていた。
挨拶といっても全員でするものではなく、ステージに一人一人あがり、中央の演台で次々に自己紹介をしていくという変わったものだった。
自己紹介は、「私の名前は○○です。私を一言で表すと○○です」を15秒以内に話すという定型フォーマットが決まっていた。

前に並んだ初々しい新入社員たちは、「私は○○です。おっちょこちょいですけどがんばります!」みたいなかわいいことを言って、さ~っとステージを降りて行く。それが延々と繰り返される。


15秒といっても280人となるとけっこうな時間がかかる。ステージ下から見上げていて、最初は喝采していた先輩方が、だんだん飽きているのがわかってきた。

自分の番が近づくにつれ、胸の中にはある決意がフツフツと湧き上がってきていた。

「きっと、これは勝負をしなければならない時だ」

人生に何度か訪れる、一大勝負の瞬間が今まさに来ようとしている。
僕は今、会場の大観衆を沸かせなければならない。あのステージの上で。

熱いエネルギーに突き動かされた僕は、頭は冷静に、現状を分析した。
これまでの自己紹介を見ていると、ステージ上で動いている奴は誰もいない。みな口を動かしているだけだ。これは、身体の動きのあるアクションが求められているに違いない。

現状を打開するには・・。そうだ、あれしかない。


いよいよ出番がきた。

ステージに上がり、前の人の挨拶が終わった。


よし、今だ。


ステージの中央へとことこと進み、マイクの前に立つと、僕はこう叫んだ。


「伊藤ひさしです。


僕はクラゲです。


ユラユラ揺れます。」

ユラユラ


「――― っ!!!」




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