どうしようもないお母さんが歩いている!

次話: むかしむかしにむかしがありました。

わたしと3才の「モコちゃん」は、代官山のちいさなお家で二人で暮らしていた。

モコちゃんのパパは、ガンでなくなってしまいわたしたちは否応なくふたりっきりの生活をスタートさせた。

当時、エディターだったわたしは、ちいちゃいモコちゃんを保育園に預けて仕事にいく。

わたしたちはいやがおうにもストイックな生活をすることになった。
だって、誰からも何も言われないふたりだけの生活。

わたしが子どもにしてあげようと思ったことはたった一つ。
朝自然に目覚められる人になる習慣作り。

わたしは、朝が苦手で苦労したから、モコちゃんは早起きが苦にならない人になれればいいなぁって思った。

だから保育園から帰って、お魚とひじきと玄米みたいなご飯を食べるとお風呂に入り、8時頃からお布団の中へ。

500冊くらい集めた絵本が壁一杯に並んでいるお部屋で、モコちゃんが選ぶ絵本を次々読んで聞かせた。

ぐりとぐら、ばばばあちゃん、どろんこはりー、こぶたのポインセチア、おさるのジョージ…。

お布団の中は温かくって、絵本の世界は楽しいし、わたし自身が癒される。

ある日、わたしは、自分の読みかけの山頭火の句集を3才のモコちゃんに読み聞かせた。

「分け入つても分け入つても青い山」
「すべつてころんで山がひつそり」
「どうしようもないわたしが歩いている」
…、

挿絵もない句集をただ読み聞かせていた。

おかげさまで、モコちゃんは早起きになった。
6時頃にはぱっちり目を覚ます。

そして、保育園の準備をしたら、朝ごはんはお向かいのベーカリーで。
香ばしいごまパンとリンゴジュースがモコちゃんのお気に入り。

カウンターの椅子からよっこいしょって降りて、歩き出す。

代官山保育園は公園のそばにある。
公園の中でわたしがモコちゃんの先になって歩いていたら、後ろからモコちゃんの声。

「どうしようもないお母さんが歩いている」

「!!!」

何と、本質を見切った言葉。

こんなモコちゃんとの日々は、わたしの人生の中でとても物語にあふれた時代。
懐かしい。

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