~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 5

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正しいリストラの仕方を伝授され、死刑執行人へと成り下がったわたし。部下の待つ自席へ戻る足取りは重かった。

所属部門の執行人たちと、道すがら簡単な打ち合わせがあった。
部下との面談は翌週から行なうことが決まる。
上司ごとに死刑囚を選んでいるが、対象者だけと面談を行なうことを避けるために、部下全員と面談することになった。
話し合いの上で本人の希望として退職を導かなくてはならず、
狙い撃ちするような見え方にできなかったからだ。


席に戻り、何もなかったように振る舞うわたし、とその他の執行人たち。
中には努めて明るく振る舞う者もいたかもしれない。

わたしはというと、席次に深い後悔を感じて押し黙っていたように思う。

自分の席の周りには、手のかかる部下を集めていた。
うつ病に近い状態で、他グループから異動してきたばかりの部下がいた。
つい数日前に、わたし自身が面接をして入社してもらった部下がいた。
20歳の頃から5年近く面倒を見て、やっと人並みになってきた部下もいた。
つまり、近くにいる部下全員が、刑の執行を待つ身だった。
もちろん、本人たちは、自分がリストラされるなど知るすべもない。
これまで通り、日々の業務を従順にこなしていた。

しかし、どうしてだろう。悪いことは続くものである。

この日は中途入社した部下の歓迎会が予定されていた。
確か数日前に幹事となった部下から、「嫌いな食べ物」を聞かれていた。
主役である転職者と同様に、わたしに対しても気を使ってくれていたのだ。

自分が執行人になるなど想像もできずにいたわたしは、
無邪気に「ナマモノ」と答えた。確かに、はっきりと、笑顔で「ナマモノ」と。
できるなら、そのときの自分に対して、胸ぐらをつかみビンタしてやりたい。
口汚く罵ってやりたい。

叶わないことだが、口いっぱいにナマモノを詰め込んでやりたかった。

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