転職大魔王伝「オレ、アメリカのお寿司屋さんでアルバイト。」3

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前話: 転職大魔王伝「オレ、アメリカのお寿司屋さんでアルバイト。」2

こんなハイペースで書くものなのかな?まぁいいっか。

というわけで最終回です。




オレ、たぶんできる。


1週間程経ち、飽きっぽいあいつらのサムハイフィーバーも落ち着きを見せはじめ、その日はひさしぶりにゆっくりとしたランチタイムで、常連客とその息子さん(推定7〜8歳)とたわいない話しをしながら握っていました。


常連客
タイチは日本人なんだから、空手できるんだろう?
オレ
もちろんできるさ。
常連客
じゃあ、ウチの息子に教えてやってくれないか?
オレ
いいよ。明日の昼休憩の時に店の前に来るといい。


驚喜し、ハイタッチする親子。

さぁ困りましたよ。

空手なんてもちろんやったことございません。

(つーか、格闘技系全般未経験)


【 懸念事項 】


 1. 空手をやったことがない。

 → どうせあいつらも知らない。オレのほうがまだ知ってるからどうにかなる。

 2. 身体が固い。

 → 寿司酢がくさるほどある。毎晩飲めばどうにかなる。

 3. 海軍学校の連中から決闘を申し込まれる恐れあり。

 → 困る。とっても困る。畳の上で死にたい。(石じゃなくて藁のほう)

当時のアメリカは「ベスト・キッド」が大ヒット中でした。

子供たちが空手ごっこしている光景を良く目にしていたし、大人に至っては東洋人が空手の構えをすると躊躇無く銃を出すっくらいのビビリっぷりでした。(いやホントに)

なので、まさか空手の国JAPANから来た「リアルベスト・キッド」のオレに向かってくるヤツなどいないだろうとは思いながらも、石畳の上を悠然と歩く全員ミルコ・クロコップみたいな連中と、冗談でも組み手なんかしたくないと思いました。

(つーか組み手がどんなのか知らんし)


どうにかしなければならない。

そう、早急に。


オレ、やればできるコ。


同じ店に実にお調子者の若者が働いていました。(仮称:トム)

こいつはいつもオーバーアクションで口が軽くて、

「日本人の女の子を紹介しろ!」か、

「オゥマイガー!」

しか言わないアホでした。


オレはそのトムを捕まえ、あるお願いをしました。

オレ
トム。オレ、今日から空手スクールをやることになったんだ。
トム
オゥマイガー!とうとうやるのかい!人を殺すんじゃねーぞ!
オレ
そこなんだよトム。オレは人を殺したくないし、殺させたくない。だから空手の恐ろしさをちゃんと伝えておきたいんだ。トム、手伝ってくれないか?
トム
オゥマイガー!オレも死にたくないよタイチ!
オレ
大丈夫さトム。君はこれをしっかり持っていてくれればいいんだ。

オレは前の夜にさんざん探しまわって見つけた、ベコベコで今にも割れそうなA4サイズで小指くらいの厚みの板を差し出しました。

オレ
トム。君はこれをしっかりと持っていてくれ。いいね。



昼休みが近くなると、店の外にやる気まんまんの親子とトム(なんで!まだ業務中だろが!)がいるのが見えました。

時間になったのでオレはゆっくりドアを開け、興奮しているトムを無視し、親子へ静かに語りかけました。


オレ
いいかい。オレは今日から君に空手を教える。
オレ
だけど、一つだけ約束してくれ。
オレ
空手は絶対に人に対して使ってはいけない。知っていると思うが、空手はとっても危険なんだ。


うなずく親子とトム。

オレ
オレは君に、空手がどれだけ危険なのかを見せる必要があるよね。トム、こっちに来てくれ。



急にビビるトムに、オレはその板(腐敗気味)を持たせた。


「絶対に動かすな。」


そう言ってしっかりと持たせた。(ひねると割れちゃうし)

オレはTVで見た構え、TVで見たフォーム、TVで聞いた雄叫び声で、腰の入った拳をその板に撃ち込んだ。

板は真ん中からバッキリと割れた。

(オレの拳もバッキリ割れた)

トム
オゥマイガー…. オゥマイガー…. オゥマイガーッ!オゥマイガーッ!


と叫びながらトムはどっかに走っていった。

親子は蒼褪めて立ち尽くしていた。

オレは息子に、今日からオレのことをシショーと呼ぶように教えた。

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