転職大魔王伝「オレ、アメリカのお寿司屋さんでアルバイト。」2
オレ、金が無い。
まさかというか当然の事態なのですが、アメリカ横断(半分)の旅を満喫していたらお金が無くなってきまして。
帰りのチケットは取ってあったのですが、その日程もまだまだ遠く先。何よりもまだ帰りたくない。
ということでおばさんに相談しよう....としたのですが、そんなこというと工面してくれそうで申し訳ないので、よく顔を出していたDCにある寿司屋の板前さん(日本人)に相談することにしました。
オレ、アメリカの寿司屋でアルバイトしたい。
実はですね。
オレ、寿司を握れるんです。
親父が板前だったこともあり、見よう見まねで形だけは握れまして。
魚の種類もネタケースの中の切り身の状態だったら判るみたいな、非常に中途半端なスキルなのですが(魚の状態だと全くわかりません)、高校時代に回転寿司屋でバイトしたこともあり、カウンターで簡単なものだったらいけたんですね。
それを武器に「アルバイトをさせてもらえないか」と頼んだのですが、さすがにそれは断られました。(法に触れますからね)
すると、たまたま店に来ていた(つーかよく会う)顔見知りの男性(東洋系アメリカ人)が、こっそり相談に乗ってくれると言い出しまして。
当時、アメリカにも寿司屋はたくさんあったのですが、ほとんど中国人か韓国人がやっていて、日本人の板前がいるところは高級店って感じでした。
その頃のオレは黒髪のロン毛を後ろで結んでいたので、よく「サムハイボーイ」「サムハイボーイ」と言われてました。
「なるほど。安価でオレのような日本人の本物の板前(?)を雇えるんなら、相手にとっても悪い話しじゃなかろう。」
「でもアメリカは契約社会だ。働く期間と目標金額は最初に決めて伝えておこう。」
ということで、オレはこの件をそいつに託す事にしました。
オレ、アメリカの寿司屋でアルバイトする。
向かった街は、DCから車で3時間っくらい(記憶曖昧)にある「アナポリス」という港町でした。
美しく古い石畳の街並み、入り江の静かな海、道を行き交う海軍の学校と若い海兵たち、DCとは違う穏やかな風景を、オレは一発で気に入りました。
早速向かった店は、その街のやや外れにある大きな一軒家で、1階が店舗で2〜3階が従業員の部屋のようでした。
紹介されたオーナーは中国人で、すごくいい感じのおじさんでした。
この街に日本人がくることはほとんど無いので嬉しいということと、宿と食事は提供するし、給料はチップとしてこっそり渡すということを伝えられました。
オレは、魚は切り身の状態からしか扱えないことと、働ける期間と最低欲しい金額(少なめ)を伝えました。
オーナーはその期間働いてくれるのならその額は必ず払うということと、日払いでくれることを約束してくれました。
どうやらオレはいつの間にか、契約社会である大国アメリカでも生きていけるほどビッグになっていたようでした。
その日からオレはカウンターに立ちました。
最初の客はココに連れてきてくれたあいつだったんですが、本場日本の寿司パフォーマンスをとても喜んでくれました。
(余談:こいつ、その夜泊まってったんだけどゲイだった。当然締め出した。)
翌日になると、もう噂を聞きつけた常連客が集まってきました。ちょっとした飾り包丁や本物(?)の巻き寿司が、彼らを驚喜させました。
その日からオレの前のカウンターは、ランチタイムとディナータイムも空席になることがマジでありませんでした。
「あそこの店でジャパニーズのサムハイボーイが寿司握ってるぜ!ってみんな言ってるぜ!」
と、オーバーなあいつらはオレの前に座ると偉そうに言いました。
「へいらっしゃい!」
「はいお待ち!」
日本語で言うと狂喜乱舞していました。
そして、オーナーからもらうチップは、日ごとにちょっとずつ増えていきました。
しかし、これはオレのビッグビジネスの序章に過ぎなかったのです....
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