~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 8
“自己都合のクビ”に導く部下との面談がスタート。
役員から命じられた目標人数は、20名だった。共に働いてきた部下の約半数を首にするという、孤独な戦いがはじまる。この戦いには、勝ちも負けもない。いや、戦いを始めた時点で、会社人としては勝ちであり、人としては負けだったように思う。
処刑リスト上位者から、確実に倒す。
始業と共に、部下との面談を実施する個室へ移動する。部屋の広さは畳にして4畳程度で、窓ひとつない牢獄のようなスペースだ。机がひとつ椅子が2脚の取調室ともいえる部屋。入口を背にした席につき、部下の入室を待つ。
ドアのノック音が響き、ひとりの男性社員がやってきた。入社2年目の彼は、体脂肪が10%を切るようなやせ形で、顔色は白く、度の強そうなメガネをかけている。見るからに虚弱体質。声はか細く、口を開ききらずにもごもごとしゃべるタイプだ。正直、仕事はできない。十数名いる彼の同期と比べても、真っ先に名前が上がるような処刑対象者だった。
(仕事がないのだから、忙しいわけがない)
(それほどじゃねーだろう)
今日はどのようなお話しでしょうか。
最近、あんまり仕事ないよね?
(だから忙しいわけねーだろ)
毎日、なにして過ごしてるのかな?
ちょっと時間かけすぎじゃないかな。もう2年目も後半になったわけだし、同期だったらとっくに終わらせてると思うんだ。
いろいろと調べたりしてたら時間がかかってしまって。
恐縮しきりの痩せメガネくん。この後も同じようなやりとりを繰り返しながら、案に、同期と比較して劣っていること、後輩にも追いつかれ、追い抜かれている事実をつきつけていく。終始、か細い声で発言する痩せメガネくん。吹いたか吹かないか、というレベルのそよ風声だった。ただし、心地よいわけはない。少しずつ、核心に迫っていく。
一通りの業務とか、社会人として……みたいなのはもちろん、折衝の仕方とかもわかったわけじゃん?
それでいて、いまのパフォーマンスっていうのが少し気になってね。。。
心配なのは、ちょっと特殊な仕事ではあるから、向き・不向きっていうのもあると思ってて。痩せメガネくんがこの仕事に向いているのかなーって考えるんだよ。
他の人が1年でできることを。痩せメガネくんは5年必要でしたとなると。努力をしてできるようになったことは、すっごくいい。
けど、他の仕事だったら、周りと同じスピードだったり、それ以上の成果を上げられるかもしれないと思うと、悩ましいよね。
正直、苦しかった。重苦しい空気はもちろんのこと、自分の発言が苦しいと感じたのだ。社会人になって2年が経過していない若者に対して、この仕事が向いていないかもしれないし、わかんないけど、どうかなー?どうなのかなー?という、主題の定まらない、言い訳をつらつらと並べるような話をしていたわけだ。最終的には、脅しに近い話をした。
倒産?そうだね。最終的にはそうなるかもね。でも、そうならないためにあらゆる手段を講じるわけだよ。まっさきにやるのは、人員整理だよね。リストラ。
じゃあ、どういう人がリストラの対象になるかわかる?うん、そうだよね。仕事の成果が低い人だよね。
いま、痩せメガネくんのパフォーマンスってどうかな?同期と比べて下の方?そうだよね。一番下とかじゃないけど、平均よりは下かなって、それは評価者として思うよ。
じゃあ、仮にリストラが行なわれて、その対象になったらどうだろう?転職するね。でも、そのころってもっと景気が悪いんじゃないかな。
当然、転職先をみつけるのに苦労するよね。。。そう考えると、現時点で自分に合わない仕事をしている人がいたら、早く動くほうが得策だとは思う。
だから、今この瞬間とかじゃなくて、それこそ、3年後とか5年後、できれば10年後とかを考えて、自分がどうなっていたいのか、そのために今するべきことは何なのかって考えてみて欲しいんだ。
と、やはり、言い訳がましい話をして、次回の面談を設定して終了となった。約1時間、みっちりと話をした。乾燥した季節に閉じられた空間。長時間しゃべり続けた喉は、ヒリヒリと痛かった。
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