(思想の話2)僕が大学院を辞めてベンチャーに就職した理由

前話: (思想の話1)「社会にインパクトを与える」に飽きた話
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僕の最終学歴は大学卒だが、博士課程3年目の秋まで大学院で研究をしていた。修士を取得していないのは、修士-博士の一貫コースに所属していたため、修士のみの学位取得のためには別途審査が必要だったからだ。

世の中で、自分が最初に真理を発見できる

高専5年生の時にリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読み、生物進化の概念の虜になった。父や先輩の時代には鉄板コースだった「高専→大手企業に集団就職」というキャリアプランは時代の流れに淘汰されていたため、自然と大学への編入を考えていた。

東大の編入枠は学科で1つしかなく、友人が受けると知り断念。1年の時に学科1位だった成績は遊びを覚えるとともに中盤キープの状態となっており、間違っても僕が選ばれる可能性はないと判断したためだ。都内で次にいい大学は東工大。生物系で一番女性比率の高い学科を選び受験した。

東工大に入るときに考えていたことは、
~教科書にのる真実を世界で最初に見つけられる~
研究者になりたいということだった。

研究職は世界的に政治的だった

僕がやっていた研究は、「細胞が分裂する際に遺伝子が正確に複製され、そして均等に2分割される仕組み」の均等分配の部分だった。酵母を使って研究していたため、ビールを飲む時に酵母の味と匂いがわかるようになった。ビールを飲んだ後で実験するとコンタミすると言われていたが、大丈夫だった。
研究をはじめてすぐに気づいたのだが、そこは政治の世界だった。国家予算から研究費を獲得するのだからよく考えれば当たり前なのだが、政治活動に長けていれば実力がなくても教授になれるという事実に全く納得がいかなかった。「研究者は研究成果で評価されるべきだ。」というビュアな志を持っていた僕は若かったのだ。
とはいえ日本は政治に染まりやすい社会だからなと思っていたのだが、機会を頂いてスウェーデンに研究留学をしていた時にフランス人の友人に言われた。
「どこもそうだよ。」
リベラリストでゲイの彼が言うのだから、本当なのだろう。研究の世界では、研究費獲得のための政治が重要な要素なのだ。当たり前の話なのだと思うが、当時の僕は都合のよい正義感を振り回すのが生きがいだったので、それが研究者人生を諦める決定打となった。

実力も政治力も両立すればいいとは、当時は思えなかった。

社会進出

研究者にならないという選択を取ると、当然就職しなければならなくなった。
電車に乗っている疲れた顔のおっさんになりたくない一心で生きてきたのに、どうしたものかと思ったが、就活の際に幸運にも社会人も捨てたもんじゃないと教えてくれた人がいた。

就職活動の中でアカリクというサービスに登録し面談して頂いた時だった。
「菅野さんは完全にベンチャー向きですね。」
そう言って担当の方はネットベンチャーをいくつか紹介してくれた。ベンチャーって、appleとかGoogleとかシリコンバレーの用語だと思っていた僕は、日本でグイグイ成長しようとしている企業があることにちょっとだけ感動した。
結局アカリクでは就職先を決めなかったのだが、その後ネットベンチャーに興味を持ってセミナーに参加した時に、最初に入社したS社と出会う幸運が訪れた。

「入社します」「一応審査あるんで待って下さい」

社会に出るにあたって、社会人とは何かを考えた。

人間が生み出した社会は自然淘汰の理論に則っているので、プレーヤーである会社のゴールは生物でいう種の繁栄だと思った。つまり、その環境下で最も繁栄する存在になることだ。多分、「世の中にインパクトを与えたい」とか言ってる会社はみんなそうゆうことを考えているのではないかと思う。「インパクトを与える」って、実は何言ってるのか意味がわからなくって、売上利益に収束するしかないのだけれど。

S社の社長にその「世の中にインパクトを与えたい」という話をしたら、「そうなんですよ、菅野さん!」と言ってくれた。自分の考えた哲学が受け入れられたのが嬉しくて、社長の描く世界観に共感し一緒に働きたいと思った。

入社前には2日間のインターンがあり、実務を体験する機会があった。営業同行や分析の業務をやらせて頂き、2日目の帰りに人事マネージャーに声を掛けられた。

「どうでした?」

「楽しかっですし、もう入社して働くって決めました!」

「いや、一応こっちも審査あるんでちょっと待って下さい。」

僕を採用しないという選択肢があるとは思わなかった。



こうして、今思えば気に食わないから研究者を辞めるという愚かな選択を取り、社会人としての生活を始めることになった。



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