性別聞かれて困ることがありますか?
男性か女性か、それが問題。
肉体については半陰陽者などの一部の例外を除くと、男性(♂)と女性(♀)に二分されるんでしょう。となるとわたしは遺伝子学的には♂です。だけど、心の問題となるとそんな簡単な話ではないのです。役所の提出物だったりアンケートだったりさまざまな場面で性別の記入を求められる場面はすごく多いのですが、その時にすごく戸惑ってしまうのです。
♂のような♀のような・・・。自分の中ではよくわかっていません。一応GDI(性同一性障害)の診断を受けており、MTF(Male to Female)ということにはなるんでしょうし、女性ホルモンの投与治療は受けている最中ですが、心の中には♂の面もあれば♀の面もあります。テレビに出ているタレントさんのように堂々と「心は♀です」などと言うことについては憚られます。まあ強いて挙げればMtXなのかもしれません。わたしは芸能人のピーターさんのような存在でありたいなって思っていたりします。
一方、世間でよく勘違いされているものとして、性自認(つまり自分が♂か♀かという認識)と、性指向(恋愛あるいは性行為の対象が同性か異性か)というのは、まったく関係がありません。性自認が♂で性指向が♀、またはその逆であれば、性自認においてヘテロセクシャルといことになるんでしょうけど、事はそんなに単純ではありませんで、肉体が♂で性自認が♀で性指向が♀というパターンもあるでしょうし、その逆もあるでしょうし。わたしの場合はというと性指向は♂も♀の両方です。いわゆるバイセクシャルです。♂の方とも♀の方ともお付き合いをしたことがございます。ただ根が「快楽主義者」なものですから、恋愛経験はたった3回ですけど。
ぶっちゃけていうと、いろんな人間と関わっていく中で、こういうことをいちいち説明して理解してもらわないといけないのが面倒臭かったりします。だからわたしをわたしとしてだけ認識してくれればよいのですが、結局いろんな記号―――外見による性差、MTFという性自認、バイセクシャルという性指向―――が付きまとってくるのが、邪魔くさくって仕方がない。
わたしはわたし。それ以上でもそれ以下でもないのです。
そんな立場なので、性差別に基づくハラスメントにはひたすら敏感です。職場でのセクシャルハラスメント、「社会的文化的な性のありよう」という意味における(『 』付きの)『ジェンダー』による差別など、この日本だけではなく世界中にまだまだ根強く残っています。その例はWikipediaに詳しいので以下転載します。
・男は外で働くべきだが、女は働かなくてよく家を守る。
・男は女を養うべきだが、女は男を養わないでいい。
・女は化粧をし、男はしない。
・男はズボン、女はスカート。
・女は乳房を見せない、男は見せてもよい。
・男は青、女は赤
・片付けられない女は話題にされる、片付けられない男は話題にされない。
・男のセクハラ加害、女のセクハラ被害は取り上げられるが、その逆は取り上げられない。
・男によるDVは取り上げられるが、女のDVは取り上げられない。
・男性は女性に手をあげてはいけない、女性は男性に手をあげても良い。
・男は髪が短い、女の髪は長い。
・男のくせに、女のくせになどの言い草。
などというね。
これらのこと、一般的な♂も♀も困る場面だと思うけど、どっちつかずのわたしらみたいな存在からしたら、大変困るのです。わたしらは、このような社会から押し付けられている「♂らしさ」「♀らしさ」の逆を行ってるわけですから。わたしが今、社会で生きにくくなっているものも大半はこの『ジェンダー』によるものなのです。
以前、わたしの上司がわたしは髪の毛を伸ばしてることを取り上げて
と言われたことがあって、すごく悩んだんだけど、これだって立派なジェンダーハラスメントだと思うのです(果たしてわたしはその後昇進できずに、うつ病で会社を休職し、いろいろあって今年1月に一般社員に降格されました。もちろん髪の毛のせいではないのだけどね。)。
一度、会社に匿名で「MTFのGIDなのですが」と社員相談室にメールしたら、「トイレやロッカーがないから困る」みたいな見当違いな答えが返ってきて失笑しちゃったけどね。
そういうことじゃないのよ。ほんとわかってない。わたしが求めているのは『ジェンダー』に囚われない生き方が選択できるかどうかなの。
たとえばこんなことだって立派な『ジェンダー』だと思うのです。
・男はみな出世を目指し、女は男の補佐的仕事にとどまる。
昔は確かにこんな仕組みでした。男女雇用機会均等法施行以降、「総合職」「一般職」などという分類で、女性にも男性と同様の働き方を(狭い門だとはいえ)選択できるようになりましたが、施行当時は総合職=変わり者っていうレッテルが貼られ、施行から30年以上経った現在においてもこういう考え方が根強く残っていると思っています。これって男女どちらにとっても苦痛だと思うのです。バリバリ働いて上を目指す女性もいるだろうし、そういう生き方を望まない男性もいるでしょう。ただ機会均等とかそういう点を考慮しないならば(かなり乱暴だけど)女性はバリバリ働くことも、補助的職務にとどまることも認められているのに、生物学的に男性だというだけでいやをなしに「出世レース」にエントリーされて、そこからドロップしたものは「ダメ社員」の烙印を押されて左遷や出向の憂き目にあってしまうわけです。
一方の女性は、「どうせ結婚して子供ができたら辞めちゃうか、育児休暇でしばらく休むんだからあまり期待できない」的な、男性中心の会社からの心無い圧力があるし、よしんば結婚して子供をもうけたとしても育児休暇前後の同性社員からのハラスメントに耐えなくっちゃならない。また子供を預けて勤務に復帰しようとしても預かってくれる場所が整備されていないのは、やはり社会のどこかで「子供は母親が面倒見るもの」という考えが蔓延しているからだというように思います。
ねー、やっぱり、おかしいでしょ?
こう書いてくるとわたしがまるでバリバリの『ジェンダーフリー論者』のように思われるかもしれませんが、ああいうフェミニズムから出てきた過激な思想にはあまり同意できません。ただね、『ジェンダー』による「♂の役割」「♀の役割」から逸脱したらとても生きづらいようなわたしたちのような存在を無視しないでということだけは強く思っています。
まー人づきあいが苦手なので、レインボー祭りやGID患者の集会的なものには、ほとんど顔を出さなくなりましたけどね。特にGIDの会みたいなのには本当についてゆけませんでした。
どうすべきだ的な答えは持ち合わせてはいないけど、♂とか♀とか、ホモセクシャルだとかヘテロセクシャルだとか、MTFだとかFTMだとかMTXだとかFTXだとか、いろんな多様性を受容して、みんなが窮屈な思いをしなくても済むような社会であったらいいな・・・っていつも思ってます。
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